放課後、公園で待ってる
これが僕たち流のデートのお誘い
いつもあまり話せないから
こうやって時々
すれ違いざまに呟いて、
学校が終わったらダッシュで下校
そして、待ち合わせ場所にて
ふたりきりのラブラブいちゃいちゃな時間を過ごす
というわけだ
まどろっこしいだろう?
しかし、それでも、やらなければいけない理由があるんだ
それはね、僕たちが男同士のカップル
つまりはBLというものだからさ
僕はバレても問題ない、陰キャだから故
けれど彼氏は違うのだ
問題がありすぎる
学校内カーストトップの陽キャイケメンだぞ!
だから僕らはこうして公園で秘密の時間を過ごすわけだ
まぁ、もっとカップルらしいことをしたいかと聞かれれば
頷くだろう
少しばかりの不満もある
でも、でもな
帰りのとき、いつもあいつは硬い表情筋を動かして
微笑みながらキスしてくれるのだ
「愛してる」
と、言いながら
こればっかりは惚れた弱みだものしょーがない
私の部屋の右隣
少し前からかすかに音が聴こえる
それは男の人達が喋っている音だったり、
その人が見ている映画の音だったり、
それはもうさまざま
けれどそれらの音より多く聴こえるのは、歌
『凄く上手い』とまではいかないけど、
聴いていたら元気になれるような、そんな歌が聴こえる
そして、少しずつ上手くなっていっているのだ
綺麗な音が出るようになってる、
音が安定してきてる
そんなことに気が付いたときから、
すっかり私はその人のファンになってしまった
今日も、歌ってる
少しだけ交ざってみる
ちょっぴり驚いているみたいだったけど、
大丈夫だったみたい
すぐさま一緒に歌ってくれた
ふたりの音色が、真夜中の暗闇に響く
それは美しい、ラブソング。
「女心と秋の空」
なんて、言うけれど
私にしてみれば貴方の心だって十分、
「秋の空」だと思うわ
だって
いつも自分から近づいてきてるのに、私の方から近づくと急に挙動不審になったりするし、
意地悪してきたと思ったら、急に優しくしてくるし、
冷やかされたら、嫌そうな顔をしながら、
それでも何故か嬉しそう
まったく、ほんっとうに分からない
貴方の心の移り変わりが
でもね、それでもね
実は少しだけ好きなのよ
いつも冷静な貴方が、
私の行動一つで感情を乱してしまうなんて
なんだろう…
可愛いって思ってしまうの
「ねぇ、」
「?」
「可愛いね」
「なっ?!?!」
その頃、空は茜色に輝いていた
「アンドロイドってね、心がないんだよ。」
学校内でアンドロイドなのでは…などと噂されてる
彼は言った
「だからね、痛いだとか、苦しいだとか、好きだとか
そんな感情はないんだって」
ならば、それならば。
私が彼のことを思い出すたびに苦しいくらいこみ上げる
想いも
彼が他の女の子と話すたびにズキンと痛む胸も
好き、という感情も
全てが本当はないものなのだろうか
偽物なのだろうか
少し考え、言葉を紡ぐ
「それでも好きだよ。」
例え偽物でも、大事に大事に持っておこう
あなたが、好きだから
私は、アンドロイド。
あなたのことを動物で例えるなら…そう、猫かしら
いつも滑らかに動いていて、気まぐれで、つれない態度をしていたと思ったら、途端、甘えてくる
本当に、猫みたい
そう思いながら、膝の上にある形の良い頭を撫でる
今日は久しぶりに甘えてくれた
嬉しくて、頬が緩む
あなたが好きよ
猫のような仕草、気まぐれな態度、そして…
「ねぇ、大好きだよ。」
時々伝えてくれる、愛の言葉
私はそれで何度救われたことか
「うん。私も大好きよ。」
少しだけ、ほんの少しでいいから、
時間よ、止まって
彼がもう少しだけ、私だけのものでいてくれるように