一ノ瀬

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1/8/2026, 1:58:05 PM

 駄菓子のスティックゼリーが苦手だ。問題ないと分かっていても、食べ物が纏うには嫌に不健康すぎる色合いが恐ろしい。
 でも、先輩は駄菓子屋で必ずそれを買う。今日は箱ごと買った。50本くらいあるだろう。そんなに食べたら体に色が移ってしまいそうだ。
「好きなんだよね、色がきれいで」
「味じゃないんですか」
「もちろん味も嫌いじゃないけど」
 そう言いながら先輩は、無造作に何本かゼリーを取り出して空に掲げた。陽の光を浴びて、半透明のそれらはきらきらと輝く。
「こうやって並べると、なんだか虹みたいだから」
 先輩は笑う。そしてオレンジ味のゼリーを束から引き抜いた。先輩の手の中の虹はあっけなく橙色を失ったことになる。6色の虹がどこか欠けていると感じるのは、僕達が虹の色を7色分知っているからだ。
「国によって虹の色は違うらしいですよ」
「一番上が黄色だったりするの?」
 見たことのない虹を思い浮かべながら、僕は先輩に、色の見分け方の違いを説明する。「藍色を見分ける僕達の方が、世界から見れば変なんでしょうね」と僕が言うと、先輩は気の抜けたよくわからない返事をした。
「でも、黄色から始まる虹、見てみたくない?」
 色の見分け方より、先輩の興味はそっちにあるようだった。
 先輩の手元を見る。1色を失ったそれは、まだかろうじて虹に見えるけど、きっと先頭が黄色になってしまえばもはや虹ではないだろう。天変地異もかくやだ。誰もそんな虹は見たくない。
 だけど、先輩だけはそれを見て喜ぶのだろう。僕は奇怪な虹よりもそっちの方がよほど見てみたい。
 先輩の虹を黄色から始めるべく、僕は虹の中からいちご味をもらう。

1/7/2026, 4:16:35 PM

「雪だ」
 先輩が呟いた。その時点で、今日の僕達の活動は決まったも同然だった。
「雪だるまつくろう」
「その映画もう10年以上前のやつですよ」
「私は昨日初めて見たよ」
 先輩はいい加減だから、本当に昨日初めて見たのか、10年前のことを昨日と呼んでいるのか、僕にはわからない。わからないけど、もし本当なら一番楽しい時期だろうなと思った。
 ほんの少ししか積もっていない雪で、苦心しながら先輩は雪だるまを作る。正しく雪だるまと呼べるのかもわからないちっぽけで歪なそいつは、贅沢にも「カローレ2世」という名前を先輩から賜った。「イタリア語で熱という意味なんだ。情熱的な男になるよ」なんて先輩は言う。僕は無茶苦茶な期待を背負わされたカローレ2世に同情する。そもそもなんで2世なんだ、1世はどうした。
「私と一緒に、どこまでも生きようね」
 手のひらに載せたカローレ2世に向かって、まるで神様のように無垢に先輩は微笑んだ。残酷な慈悲深さ。先輩のこういうところが僕は好きで、いつだって同じくらい憎らしい。
 今日ははらはらと雪が降るくらいには寒い。でも、明日はそうでもないことを僕は知っている。たった一晩でさえ彼が乗り越えられるかはわからない。先輩はそれを知らないし、きっと興味もないだろう。
 だから僕は何も言わずに、ただ彼がその身に宿した名前に押しつぶされず、できるだけ長くここに在れることを祈る。