裏返し
俺達はカップルだ。彼女は美咲ちゃん。みーちゃんって呼んでる。付き合い始めてもう一年。恋人らしいことが全くできていない。俺が引っ込み思案なせいだ。
だが、今日はみーちゃんの誕生日!おっと、焦って服が裏返しだったようだ。まだ来てなくてよかった。直せる。今、なんと、みーちゃん家に行って、ケーキとプレゼントを用意している。クローゼットに隠れて待とう。ああ、まだ来ないのかな?
お、遅い。おかしい。普段ならもう家で勉強を始める時間のはずなのに。
なんで?あぁ、家族と出かけているのかな?誕生日だもんね!
、、、ハッ!寝てた。今何時だ、、、?
って、9時ぃ!!??あ、ベッドにみーちゃんが居る。寝てる姿も可愛いなぁ。って、いけないいけない。
クローゼットを開けようと手を伸ばした。
私達はカップル。彼氏は将生。まーくんって呼んでるの!付き合い始めてまだちょっとだけど、、。うふふ。こういうの初めてだから緊張するなぁ。
私の誕生日。きっとサプライズを用意してくれる。まーくんはそういう人だから。逆サプライズしちゃお!
まーくん家。開きっぱなしのノート、ボロボロのサッカーボール、裏返して脱ぎ捨てられた靴下。まーくんらしいや。あれ、スマホがない。忘れてきちゃったのかな?まあいいか。『まーくん大好き!』そう書かれたケーキを持ってベッドの下に隠れた。ちゃんと事前にお母さんに許可も取ってある!
あ、あれ?おかしいな?
まだかな?まだかな?
私の誕生日、忘れてないよね、、?
今何時だろう?
もう七時?!仕方ない、寝ようかな。ああ、期待を裏切られた気分。私の誕生日に限って家に帰ってこないなんて。浮気かな。忘れられてるのかな。ああ、辛い。
ガタッ。
「な、なに?!」
「サプラーイズ!!誕生日おめでとう!!!」
「キャッーーー!!!アンタ誰!?」
「ん?みーちゃんの彼氏の金岡 "奏斗" だよ?」
「し、知らない、、。勝手に入ってこないで!どうやって家に!?」
「みーちゃんの為につくちゃった。合鍵。笑」
「、、、あれ、みーちゃん顔変わった?メイク落としたみーちゃんも可愛いよ笑
声も違うような、、?」
僕は将生。彼女ができた。嬉しいんだけど、、。彼女の誕生日が近い。何を買っていったらいいんだろう?妹に聞いてみよう。
「なあ、"美咲"ー。」
「んー、なあに?」
「今度さー、僕の彼女が誕生日なんだよね。」
「うんうん。え、いつ?」
「ちょうど1週間後。」
「えー笑私の誕生日と一緒じゃーん笑」
「あ、ホントだw」
「あー、アタシも彼氏欲しー笑」
「できるよいつか笑」
「いつかっていつよ?」
「いつかはいつかだよ。てか、誕生日何買ったらいいんだろう?」
「あー、女はみんな、〇〇とか喜ぶよ。」
「へー。他には?」
「他にはね、、、。」
誕生日だ!彼女の為にケーキもプレゼントも用意したぞ!よし!
「今日は美咲の誕生日だし、出かけるぞー!」
「えっ」
「今日、将生の彼女の誕生日なんだよ。将生だけ置いて行ってあげて。」
「知らん!家族サービスだ!ついてこい!」
父はいつもこうだ。無理矢理いいことをしたと通そうとしてくる。こうなったら、誰も止められない。
仕方ないので、ラインを打つ。見てくれるよな。あー、明日、一日遅れたこと、フォローしないと。
めんどくさい。許さん父。
補足。裏返しの意味。
1、物の裏を返して表にすること。
2、反対の立場、逆の視点から見ること。
鳥のように
私は牛。食用の牛。
ステーキ、牛丼、ハンバーグ。みんな好きでしょう?私らからできているんだ。
チーズ、ヨーグルト、クリーム。これ、私らの乳からできているんだよ。
でも、勝てない。
僕は豚。食用の豚。
生姜焼き、酢豚、豚カツ。みんな好きでしょう?
僕らからできているんだ。
でも、勝てない。
ああ、鳥には唐揚げ、フライドチキンがあるのにな。
ああ、鳥にはスクランブルエッグ、目玉焼き、卵焼きの材料の卵があるのにな。
私には卵なんて産まれない。有名な揚げのレシピもない。卵の汎用性に乳は負けてる。なんて要らないんだろう。
僕には乳も卵もなんにも出せない。肉だけ。なんて要らないんだろう。
鳥のように、いいものがあったらな。鳥のように、なりたいな。
妾は鳥。食用の鶏。
唐揚げ、フライドチキン。好きであろう?
妾らで出来ておるのだ。
スクランブルエッグ、目玉焼き、卵焼き。
パン、お好み焼き、チャーハン。
これ、妾らの卵からできておる。
でも、勝てないな。
アレルギーなどで気をつけている人を除いて、パッと後半は浮かばぬ。揚げものばかりが目立っている。こんな妾が牛さんや豚くんと並べられても良いものか。
、、、だが、妾がいなければ困る奴もおるはず。
羨ましく思う時もあるが、仕方がない。妾にできることと、みんなでできることを合わせて、最高の食事を届けたいと思う。
牛さん、豚くん、頑張ろうな!
鳥のように、鳥のように、なりたいな。
鳥のように、鳥のように、鳥のように、、、。
さようならを言う前に
もう、こことは別れなければならない。悲しいが、俺も大人になったということだ。みんなでこっそりと侵入した森の奥の秘密基地。川の音と鳥の鳴き声が微かに聞こえる。ごごご。おたまじゃくしのたまちゃん、立派なカエルになったのかな。いつのまにか水槽から消えていたけど。ほーほほっほほー。この鳴き声から、フクロウが居るんだと思い込み、森のあちこち探し回ったな。朝にフクロウが居るわけないのに。
あ、この湖、、。確か俺、溺れかけたんだっけw香穂ちゃん、元気かな。またアホみたいなことやって、みんなに迷惑をかけてんのかなーwなんてね。
香穂ちゃん。俺の、、なんつーか、、。親友だった子。アホで、バカで、間抜けで、みんなをハラハラさせるようなことばっかりしてた。顔はまあまあ可愛かった。だけど、死んじゃった。13歳で。
一緒に木に登って、一緒に川に潜って、一緒に飯食って、一緒に秘密基地作って、一緒に、、。一緒に、、、、。これ以上考えてもしかたない。
「さようなら。俺の思い出の場所。」
そう声を出そうとした瞬間、温かい風が背中を抜けた。ハッと振り返る。なぜか、懐かしい感じがした。そしてそこに何か埋まっている。
俺は、これを掘らなきゃと思った。手で土をかき分けると、それはお菓子の缶をガチガチにガムテープで止めたもの。そしてインクが剥がれかけて読みづらいが、マジックで「タイムカフセル!間けないでね!」
誤字がある。香穂ちゃんと俺の文字だった。
中を見てみる。中には懐かしいおもちゃ。てんとう虫形で飛ぶやつ、ヨーヨー、シール。下の方に2枚の手紙があることに気がついた。
「未来の俺へ
元気?今何やってる?ポケモンは全種類そろえれた?オレのことだからきっとできているでしょう。」
ごめん、できてない。
「俺はなんか、変な生き物つかまえたり、してます
13のオレより。」
文章がなさすぎるだろ。なんでこんなもん埋めたんだ。
もう一枚を読んでみる。
「未来の香穂へ
未来の香穂は今何さいですか。誰と血痕しましたか。」
怖。
「って、、血痕相手はゆうたくんですよね?」
ッ!俺?
「私、ゆうたくんに好きって言います。14才のたんじょうびで。絶対成功しますよね?いや成功させて見せます!13の香穂より。」
あぁ、、。
なら、俺も伝えなきゃ。
「好きだったよ。
さようなら。香穂ちゃん。」