「さよならを言う前に」
風が
一陣の風がぴゅるりと鳴く
今まさに此処から一羽の鳥が羽ばたこうとしている 羽を伸ばし
枯木が一羽の鳥に成らんとしていた
その瞬間を目のあたりにする
その羽は傷ついていた
飛べないはずなのに力強く天に届かんばかりに羽を広げ
静かな羽ばたきを まさに今
さよならを言う前に……
記憶を掻き集める事はできたかい
大切なひとの顔を憶える事はできたかい
私は問う
枯木の化身は首を振る
記憶できないことにはもう慣れている
それがさも 当たり前のように
それでも悲しげに
役割を終えた私は地より離れて空へと還る
そこでやっと待ち望んだ自由を手に入れる
しがらみも苦痛も そこでは感じられない
あぁ そうでしょう……
あなたはそれをずっと望んでいた
空へと還る準備をするあなたを私は止められない
さよならを言う前に……せめて
私の顔を憶えていってほしい
私の声を憶えていってほしい
私の色を憶えていってほしい
それは 叶わぬだろう
そして 私は共に空へと還れない
風が
一陣の風がぴゅるりと鳴く
あの風は私の心
「空模様」
どんな空模様でも好き
心を映し取ってくれてるみたい
見守ってくれてるみたい
包まれてるみたい
愛されてるみたい
どんな空模様でも好きだよ
あなたから見える空模様を
想像しちゃう
そしたらね少しだけ元気がでるの
同じ空の下で生きてるって
同じ空の下で繋がってるって
心と心が繋がって
一つになれる瞬間があるんだって
そう想わさてくれる
そんな空模様
「鏡」
私の瞳は人本来の姿を映しとる
たとえばどんなに優しそうな人間に見えてもその仮面の下の顔を捉えるのだ
怒りや嘲りに満ちている時はどす黒い影を捉える
鏡は真実を映すともいわれる
だとしたら
私の持つ瞳は鏡なのかもしれない
恐ろしい
私は人が恐ろしい
そしてそれを悟られないために
それ相応の対応をしてして取り繕う
優しくみえた時にはその偽りの優しさを相手に跳ね返す
怒りに満ちてた時には私は偽りの優しさを相手にぶつけるのだ
私は鏡のような人間となる
そうこうしているうちに私は自分の姿を鏡に捉える事ができなくなってしまった
自分がない 自分の意思がないのだ
鏡に映る私は透明だ
ああ多分 人からみたら私は透明な化け物なのだろう
自分以外の人からみたら
私も充分 化け物なのだと悟る
私は自ら鏡を壊す
もう何も映しとるまい
✳✳✳✳✳✳✳✳
そして部屋には大きくひび割れた姿見鏡だけが残った
歪んだ姿しか捉えない鏡は人々から役立たずだと罵られ暗い部屋に押し込められた
それでも鏡は幸せだった
もう人が望む姿を無理して映さなくてもよくなったからだ
「いつまでも捨てられないもの」
罪深きものだと自分でも理解している
しかし
これも一つの愛着の形
手放したくない情
最早 私の一部
あなたに対する想いは
やはり
いつまでも捨てられないもの
「誇らしさ」
今日も何処かできっと誰かが
悔し涙を流しただろう
苦しくても歯を食いしばっただろう
あるいは
死にたい気持ちと戦って勝ったのだろか
人の数だけ その人にしかない想いのドラマがあるはずで
それはきっと誰にも分からない、そんなものかもしれない
だから
君は君の あなたはあなたの
誇らしさを胸に抱いて
そして未来への階段を一歩ずつ歩いていけ