すずか

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「さよならを言う前に」

風が
一陣の風がぴゅるりと鳴く


今まさに此処から一羽の鳥が羽ばたこうとしている 羽を伸ばし

枯木が一羽の鳥に成らんとしていた
その瞬間を目のあたりにする

その羽は傷ついていた

飛べないはずなのに力強く天に届かんばかりに羽を広げ

静かな羽ばたきを まさに今

さよならを言う前に……

記憶を掻き集める事はできたかい
大切なひとの顔を憶える事はできたかい

私は問う

枯木の化身は首を振る
記憶できないことにはもう慣れている

それがさも 当たり前のように
それでも悲しげに

役割を終えた私は地より離れて空へと還る
そこでやっと待ち望んだ自由を手に入れる
しがらみも苦痛も そこでは感じられない

あぁ そうでしょう……

あなたはそれをずっと望んでいた
空へと還る準備をするあなたを私は止められない

さよならを言う前に……せめて

私の顔を憶えていってほしい
私の声を憶えていってほしい
私の色を憶えていってほしい

それは 叶わぬだろう
そして 私は共に空へと還れない

風が
一陣の風がぴゅるりと鳴く

あの風は私の心


















8/21/2022, 1:49:38 AM