僕を傷つけるヒトが嫌い
僕を弾劾するコエが憎い
僕を嘲笑するカゲが怖い
だから人間なんていない方がいい
でもそれは全部自分自身
彼岸花の鮮烈な紅
雨に濡れる森の緑
深海の底に潜む青
原色のパレット
だから人間の黒い文字なんてない方がいい
でもそしたら誰が喜びこ此れを謳うだろう
かみさまがすべてを描いた
私も含めてすべて理想郷
目を覚ますと右横の窓の景色が目に入る。最近は朝が僕を置いてけぼりにするので、目覚めた直後の青空がすこし不快になる。でも、本当にたまたま朝日よりも少し早く起きることもあって、そんなときは屋上に上がって一日が動き出すのを眺める。窓のすぐ横には楓の木が手で触れられるほど近くまで枝葉を伸ばしていて、そこに鳥が止まって憩う様子が眺められる。ベットからのそりと起きると、左側に本棚に、茣蓙、そして勉強机などが置いてある。机の上には花瓶とCDプレイヤー、本棚の上にはゴッホの〈夜のカフェ〉のジグソーパズルが置いてある。正面の扉には「扉は開かれるためにある」と書いて貼ろう。
僕の大事な、大事な、僕の部屋。
自然というものをどう捉えているのか、ということでその時代がどういうものなのかが判る。そんなことを大学に入ったばかりの火嘉が、したり顔で講釈をたれていたことを何となく思い出している。私にこの時代を象徴する言葉が何か、言葉にされすぎているが故に却って不足しているものは何なのかということをいわせてもらえるならば――。そこまで無意識的に言語化してから、すぐにその先へ思考を進めることを中断する。ガサ、と溶け始めた雪から顔を出した笹林を何かが棲み分けてくるのが聞こえたからである。先日までであれば私がそれの死神となって撃ち殺す機会を狙ったのであろうが、武器のない今となってはそれが私の死神となるかもしれぬ。脳が命じ心臓が痛いほどに鼓動して、言葉のない、明晰な今このときという瞬間の中に埋没していく。血潮の噴流、生命の賛歌、無常への畏敬。
気の抜けたような青い空にゆっくりとため息のような雲が過る。何処か遠くで軽い銃声が交錯しているだろうというのに、葉のない木から吹き付ける風の音と偶に鶯の鳴き合う声しか聞こえない。
結局、永遠とも思えた瞬間を過ぎて私は殺されることはなかった。なぜならば獣かと思って覚悟したその影は貧相な毛のない猿であり、その動物も私と同様に迷っていたからである。私に云わせてもらえるならば、人は武器なしにはあまりにも弱く、同じように自然という永遠に対して直視できないようになっているのだ。空を見上げながら私もひどく退屈だな、とため息のような咄嗟の苦笑のような空気の吐き出し方をした。瞼を閉じれば、最後に、きっと、星が溢れたような冷たい死の光が私を包む。