1日の中で、最も生き物の音が無くなる時間。
星と、街の灯りだけがチカチカと、小さく力強く囁きながら何かを話し合っている。
たまには風が大声を上げ、たまには雨がかしましく喋り合う。
月は言葉少なに夜空をゆっくり、気まぐれにたゆたう。
眠れない夜には、天使に会える時がある。
彼は私の全てを赦し、抱きしめ、流す涙を受け止めてくれる。
または、悪魔が来る夜もある。
これまでの罪を冷たい氷柱に変えて、突き刺し、責め続ける。朝日が私を暖めてくれるまで、彼は赦すことはしない。
ミッドナイトという濃紺色の言葉の中には、静けさと贖罪が忙しく行き交うから、こそりと丸薬を一粒飲んで、目蓋が重くなり、今日こそは、あの星や街の灯や、風や雨になれるよう膝を抱えるのだ。
題目「ミッドナイト」
貴方の微笑む夢を見ました。
あれから何年も経ったのに、あの頃の貴方のままでした。
網戸越しの逆光の中で、いつものように目を細めて。
左の口角だけ上がる、あの癖のある微笑みに、私はやっぱり見とれていました。
きっと私も微笑返していたでしょう。
貴方の知らない私の季節は、もういくつ過ぎたでしょうか。
未だにこうして、貴方を愛している私がふと立ち止まる朝があります。
だからごめんなさい。
まだ連絡は返せません。
題目「逆光」
やり直したい過去ばかり。
タイムマシーンで、戻れたら全部、全部やり直したい。
そしてきっと、同じような過ちを、また繰り返すんだと感じてる。
朝。六時半。苦しい気持ちで、今日が始まる。
題目「タイムマシーン」
雨ぽたり 軽やかな声 幼子の 色とりどりの傘の花咲く
「色とりどり」
こたつ
石油ストーブの匂い
ストーブ上のヤカンから立ち昇る蒸気と音
ついでに焼かれるカンコロモチ
スーファミのピコピコ音
遊びを咎める母の声
呆けた祖母の定まらない視線
相撲が始まれば強制的に遊びは終わり
惰性でテレビを観る自分
酒を無言で飲み続ける父
リビングには、行司の声が寒々と響く
玄関を磨く音
逃げ出したかった
苦痛と甘さの入り混じる冬の思い出
題目「冬休み」