「聞きたいんやけど」
「ああ、何?」
「なんで俺らってこういうこと、してんねやろね?」
「それ…それ俺に聞くぅ?」
「いや、だって本人に聞く勇気」
「ないなお前は。うん」
「だからちょっと、お前に聞いてみようかなって」
「あー……俺は……。
せやなぁ、理想のため、やろか」
「理想、ねぇ……」
「お前はないの?なんか、
こんな世界だったらええのにって」
「かわいい子に囲まれて暮らしたい」
「お前はいつもそうやな!!
……まぁ、そういうようなでもええ、
理想を叶えたいがためにこんなことしてんねん」
「ふーん。理想郷ってやつ?」
「んな大層なもんやないけどな。
まぁそういうことや」
「じゃあまぁ……適度にがんばりますかぁ」
「そうしてくれや」
────ある日の話:8
「ただいま」
「おかえりー」
「あいつらは?」
「仕事中。僕は一段落ついたところやね。サボりちゃうで」
「…そうか。あいつらも忙しいんやな」
「ほんとに。でも変わらんくない?」
「それは…まぁ、せやな」
「っはは、認めちゃうんやねそこ。
ねぇ、お土産何?」
「ようかんと、まんじゅう…と、
店のばあやが寄越した…なんやこれ」
「えぇと……見た感じは、餅」
「うーん。あとで聞くか」
「せやね。…ふふ」
「なんだ、気持ち悪い」
「えぇ辛辣ぅ。ただ、“ただいま”ってその声で聞くん、
すんごい懐かしいなって思うて」
「あぁ……そうか。そうかもしれんな」
「みんなにも言うたって、たぶん待っとるから」
────ある日の話:7
「……もしもし」
『なんだ、いきなり』
「あぁ生きてたか」
『生きてて悪かったか?』
「いいや、安心した。元気そうで何よりだ」
『ああそう。で、何かあったんか?』
「何もない。何もないから、お前の話が聞きたい」
『…つまらん話しかないぞ?』
「それでいい。何かいい感じの物はなかったか?」
『そうだな……。良さげな甘味屋を見つけた。
久しぶりに帰るとするか、と思ったくらいやな』
「おぉ!それはいいな!」
『なにがいい?ようかん……とか、まんじゅう、
とか言うのがあったな』
「ふむ……わがし、というやつだな。
取り敢えず美味そうなのを買ってきてくれ!」
『はいはい。それまで生きてろよ?』
「お前こそちゃんと持って帰ってくるんだゾ!」
────ある日の話:6
「……あ」
「こんにちは。一緒にいかがです?」
「今、忙しいからええわ…」
「……ダメです!やっぱり一緒に食べましょう」
「っだ、まだ終わってないねん…!」
「多分、今のままじゃ上手く…いかないですよ」
「……」
「だからほら、甘いもの食べて、リラックスしてから、
もう一回やりません?私も手伝います」
「……しゃあないなぁ。
今日何淹れたん?いつもと違う匂いするやん」
「!…ええ、今日は“ヌワラ・エリヤ”という山岳地帯の
お茶を淹れたんです。私も初めて飲むので、
美味しいといいんですけど」
「くふふっ、多分大丈夫やで!
だってお前が淹れたやつやからな」
「…それはそれで、嬉しいのか何なのか…全く」
────ある日の話:5
「いつも、ありがとうな」
「は?」
「いや、言ってねえなって思って」
「……それは、そうやけど。珍しいやん」
「部下であり良き友人のお前らに感謝が足りないのは
どうかと思ってな」
「ふ、そんなこと考えんねやね、あんたも」
「別にいいだろ」
「まぁ、悪い気はせんけど」
「…今思うと、似ているような気がするな」
「んー…?あぁ、俺らが?そうかもしらんね。
違いすぎて、逆に似てるように見える」
「あー!そういうことか。合点がいったゾ」
「ほんならええわ」
「まぁ、これからも“ありがとう”だな」
「こっちこそ。そんな話があったって、
もっと年取ってから笑えたらええね」
────ある日の話:4