肌寒さに目が覚めた。
微睡む意識で、周りを見渡す。
まだ薄暗い部屋の中、カーテンが微かに揺れているのが見えた。
窓を開けた記憶はない。自分の他に窓を開けるような誰かもいない。
何故窓が開いているのだろうか。込み上げる疑問に、だが窓を確かめる気力はなかった。
体が鉛のように重い。気を抜けばすぐにでも瞼が閉じてしまいそうだ。
ぼんやりと、揺れるカーテンを見る。強く風が吹き込んだのか、大きくカーテンが揺れ、僅かに外が覗いた。
薄暗く、寒々しい空。葉の落ちた木。窓の結露。
きっと、外は霜が降りているのだろう。
息を深く吸い込み、吐き出す。
ただそれだけの動作を繰り返す。
目はまだ開けられない。胸の鼓動は少しも凪ぎはしない。
苦しさに、胸の前で手を組んでいた。きつく組んだ手の熱に、溶けていきそうな錯覚を覚える。
薄く目を開ける。組んだ手に視線を向け、その滑稽さに乾いた笑いが込み上げた。
目を閉じ、胸の前で手を組むその姿。
それはまるで祈りを捧げているように思えた。
糸を紡ぐ。
からからと、くるくると、見えない糸が紡がれる。
手を止めて、紡いだ糸の先を見た。宙に揺れる見えない糸は、次第に色づき、先を誰かの右手に巻き付け繋いだ。
目を凝らす。遠く見える誰かが繋がれた手に視線を向ける、こちらを振り向いた。
思わず息を呑む。
紡いだ糸が繋ぐ先は、自分自身だった。
赤や茶色が敷き詰められた道を歩いていく。さくり、さくりと歩くたびに乾いた音が鳴る。見上げる木々は寒々としているのに、足下はとても鮮やかだ。
悪戯な風が辺りに赤や茶色を舞上げ、視界を覆う。思わず立ち止まる体に、かさりと落ち葉が降り積もった。
「鍵はこの家のどこかにあるよ。頑張って探してね」
そう言って笑いながら消えた彼女を思い出し、何度目かの溜息を吐く。
探し始めて何時間が経過したのだろうか。広い屋敷の中から、小さな鍵を見つける。途方もない行為に無理だと察してはいたが、やはり手がかりひとつ見つからない。
近くの椅子に腰掛け、眉間に刻んだ皺を伸ばす。
もう、諦めてしまおうか。
何度も込み上げた気持ちを、何度も同じように否定する。
諦める訳にはいかない。
鍵がなくとも、生きることに支障はない。だが鍵がなくては生きる意味がないのだから。