追い縋ってくる女に、和樹は極めて冷淡に話した。
年の頃は20の長めの金髪を無造作に垂らす繊細な細面だった。
「誰が助けてほしいと言いましたか」
それまでの紳士的な…ある意味気弱な青年の素顔が払拭されるほど機械的だった。
残念です。と付け加えて、細身のサーベルを鞘走らせる。
娘が激高して指を突きつけるが、和樹には届かない。
おびただしい数の獣の影が遠くから音もなく現れたが、想定の範囲内。
周囲の空間が切り取られるように歪み、死神のような風体の少女が降り立つ。漆黒の衣服に長い鎌を持っていた。
「だから言っただろ。人間の女に入れ込むなって」
少女は周囲にいくつも結界とバフを掛けていく。
「ガチャみたいなもんだ」
この世に即戦力となる器はなかなかいない。殺してしまえ。少女に命じられ和樹は子供たちの目の前でひゅっと音を鳴らして刃をふるった。首が落ちる音がする。
「そうでした。SSRは最初に当たったんでした」
は?なんだそれ?
少女は俗っぽいことを突然言い出した相棒に怪訝な顔をする。和樹はもとの柔和な顔を取り戻していた。
「助けてくれた人がね、SSRだったって話ですよ。付いていきますよマスター」
ひどく苦しくてベッドのシーツを握りしめると、汗ばんだ大きな手が胴を支えてきた。
「掴まれ」
体位を変えて私達は向き合った。
「恥ずかしい」
私はやっとのことで照れ隠しもあって呟いた。
先程から彼の顔が見られないのだ。だって、いつもよりずっと逞しくて雄々しくて気圧される。抗えない。彼のこんな姿は初めてでどうしたらいいかわからない。
「動くよ」
低い声。
私の言葉は聞こえて居ないかのように無視をされた。
激しい荒波は獣のように理性を飛ばし千々に乱す。体の奥の方で何かを感じた。苦しくてもやっと彼が押し開いた扉だった。
「もっと顔見せて」
やっと聞けた声も、私と同じように苦しげだった。
北さんよ……子供寝かせてる時にミサイルやめてくれんか…
迷惑料もらいますよ…
どうして否定する。
この世界で要らない人間は居ないなんて陳腐なセリフを吐くつもりはない。
お前が否定をするな。俺の気持ちまで踏みにじるな。
嫌になる。うんざりするぐらい言い続けてやる。
最後まで付き合うから全部くれって言ってるんだよ。
不思議だ。
君があまりに覗き込んでくるから、落ち込んでいたのがどうでも良くなってしまった。
チョコ一つで子供のように笑う君のそばに居て、心が軽くなるという現象を初めて知る。
陽は高く空は蒼い。こんなにも世界は明るかったんだね。