「これまでずっと、自分の素を出せなかった」
私は常に自分ではなく他の誰かだった。
身の上を隠して生きる上では必須で、何十人と別の誰かを演じていた。
もう演じなくても、偽らなくてもいい。
俺の前ではずっと本当の自分でいてくれ。
幾ら愛するキミにそんなこと言われても、いきなりは難しい。そんなに強く抱きしめられても、私には簡単なことにならないよ…。
*(続き)
「…返事は?」
「返事?」
10分ぐらい経ったぐらいで無言が耐えられなくなったのか、彼が口を開いた。意図がわからず聞き返すと、彼は視線をさ迷わせ、頬も耳も赤く染まっている。
なにか重要なことを言われたのか、思考を巡らせるが分からない。キミの言葉はいつも遠回しで、私には気づけない。近くでイチャイチャしているカップルがいる。ああ、彼らの真似事をしたら分かるのかな。
「ガノ、あれ」
「おい、その名で呼ぶな…」
「狼龍」
お説教が始まる前に偽名を呼んで黙らせ、近くのカップルを指さす。
「あれやろう」
「は?お前バカか?…もういいから、帰るぞ。潮風に当たりすぎたな」
さっきまでの表情はなんだったのか。私の手を引く彼は普通の表情に戻っていた。
人間に近いキミの感情も難しい。
*
〈解説〉
神族である2人が人間に紛れて現代社会で過ごす様子を書いた創作小説。
・ガノーロルン(ガノ)偽名:駕野狼龍
見た目は20代後半のゲルマン系の男性、本来は狼のような姿をしている。時に冷徹と言われるほど冷静で優しく強い。日本の警察官として働いている。
・キテカゥス(キティア)偽名:ティアラ・キーストン
見た目は20代前半のギリシャ系の女性、本来は猫のような姿をしている。超マイペースでつかみどころがない。日本やアメリカでモデル兼IT企業の社長として働いている。
「1件のLINE」
朝目が覚めてスマートフォンを開くと、君から一通のメッセージが来ていた。
時刻は真夜中、一言「会いたい」とだけ。
もう遅いかもしれないが、急いでキーを掴んで家を出た。
*(続き)
合鍵を使って彼女の部屋に入ると、君はベッドの上で丸くなっていた。一晩中泣いていたのか目の周りは真っ赤に腫れ、ぐずぐずと鼻をすすりながらくしゃくしゃのティッシュをゴミ箱めがけて投げている。
「遅い」
人が寝ている時間にメッセージ送ったくせに何言ってるんだ、という思いは溜息にのせて吐き出した。とりあえず床に散らかったティッシュをゴミ箱に捨て、布団を剥いで抱きしめた。
「どうしたんだ」
「ガノがいないと不安」
「それなら来いよ、真夜中にメッセージなんか送ったって起きてねえし」
「…」
即答する君に正論をぶつける。拗ねて俺のシャツのボタンを外す彼女を制止をかける。俺はこの後出勤するんだ、どんな理由があれど頼むからやめてくれ。
「ただの嫌がらせ」
「おい」
「ふふっ」
*
〈解説〉
神族である2人が人間に紛れて現代社会で過ごす様子を書いた創作小説。
・ガノーロルン(ガノ)偽名:駕野狼龍
見た目は20代後半のゲルマン系の男性、本来は狼のような姿をしている。時に冷徹と言われるほど冷静で優しく強い。日本の警察官として働いている。
・キテカゥス(キティア)偽名:ティアラ・キーストン
見た目は20代前半のギリシャ系の女性、本来は猫のような姿をしている。超マイペースでつかみどころがない。日本やアメリカでモデル兼IT企業の社長として働いている。