「パパってさー、泣いたりすんの?」
就活中の娘が聞いてきた。
「お前が産まれた日以来、泣いてないかもな〜」
という言葉を軽く受け流して娘は続けた。
「ママはよく泣いてるから、ママの涙腺は嫌だなー」
「ど、どういうこと?意味がわからん」
「仕事量の話だよ」
「仕事量?」
「そう。ドラマ観て毎回泣いてるから、過労気味でしょ?涙腺」
「な、なるほど…確かに、忙しそうではあるな」
「それに比べるとさ、暇持て余してるじゃん。パパの涙腺」
「…」
「まあ、あたしが誰かに嫁いだ時くらいじゃない?今後働くの」
「…」
「んじゃ寝るわ。お休みー」
遠ざかる娘の足音を聞きながら罪悪感に苛まれた。
すまん。娘よ。
俺…結構泣いてる。
近々だと、年末のJR船橋法典駅。
単勝、三連単、三連複、全部外した時、マジで嗚咽漏らしたわ。
正直、泣きすぎて枯渇してるわ…俺の涙腺。
就職するなら絶対にママの方がマシだぞ。
俺の涙腺は超絶ブラック企業だ!
——— 透明な涙 ———
今日のCM撮影は散々だった。
監督さんに何度も止められた。
セリフはたったの一節。
「あなたのもとへ」
明るくセリフ言った後、小首を傾げハニカミながら拳握ったら…
「青と白のユニフォーム着た運送屋が、帽子のつばを抑えながら一礼してきたわ!佐川かよ!拳握んなよ!」と言われ。
トーンを抑え気味に遠くを見据えながら両手を胸の前に重ねセリフ言ったら…
「王子様に逢いに行く乙女かよ!クライアントはJR東海じゃねーよ。あぁ、お前博多出身だったな。JR九州じゃねーよ!」と言い直され。
悔しさを我慢して、それでも頑張って空見上げながらセリフ言ったら、自然に涙が頬を伝っちゃって…
「昨年亡くなったばあちゃんを召喚すんなよ。満面の笑みで両手広げて待ってたわ!まだ逝かねーよ!葬儀屋のまわし者かよ!」と涙浮かべながら罵られ。
気を取り直して、指差しながら無表情で抑揚つけずにセリフ言ったら…
「マルサかよ。怖えよ。この時期にそれは怖えよ!」と怯えながら言われた。
「お前、表現力と演技力半端ねーな。天才かよ!俺の知り合いに映画監督何人かいるからよー、直ぐに紹介してやるよ」
とか何とか興奮気味に言われちゃって、褒めちぎられながらCMクビになっちゃった。
もう、無理。
まじでわけわかんない。
——— あなたのもとへ ———
さっと身支度整えて
寝てる家族にしっと心
すっと心にしまい込んで
玄関の鏡で髪の毛をせっと
そっと扉をしめたなら
サ行現場へ直行だ
——— そっと ———
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忌まわしき呪いの数。
数多の人の思念・怨念が、この数の周りを成仏されること無くふわりふわりと漂って、そして未来永劫頭の片隅に居座り続ける。
かくいう私もその一人。
逃げも隠れも出来やしない。
この世の全ての生きとし生けるものに平等に与えられた概念は、とても冷酷で残忍で容赦がない。
国籍が違おうが、宗教が異なろうが、性差が違おうが、ましてや真核生物の壁さえも難なくソイツは凌駕して襲ってくるのである。
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259002
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どうだ!みたか!
私は乗り越えたぞ!
思い知ったか三日坊主よ。
——— まだ見ぬ景色 ———