「最高の試合だった!
試合には負けたが、
レギュラーも控えもサポートも
みんな一丸となって頑張った!
俺はこのチームを誇らしく思う。
みんなのことは一生忘れない」
野球部上級生最後の試合。
監督が涙ながらに語った。
みんな貰い泣きしていた。
補欠の私も泣いた。
私が帰りのバスに乗り込もうとした時、
「この菓子折り放送室に届けといて」
と、監督から紙袋を渡された。
放送室から帰ってきた時、
バスはすでに出発していた。
私は泣いた。
記憶
「あの時の〇〇がなければ、
今の自分はありません」
よく成功者が言いそうな言葉。
〇〇が無かった人生を歩んだのが
私です。
いや、〇〇を乗り越えなかっただけか?
〇〇を避けただけか?
もう二度と無い人生。
「野球部にさえ入らなければ…」
中学生の頃から、
ずっと後悔していることだ。
中学に入学したばかりの頃は
私は明るい性格だった。
「友達いっぱい作るぞ!」
と、ワクワクしていた。
野球部に入部するまでは…
中学には我慢して通ったけれど、
得たモノよりも
失ったモノの方が多かった。
忘れたくても
忘れられない。
人生の分岐点になったから。
bye bye…
君があらば、
腐敗せる世も
いと愛ほしがられけむ。
君と見し景色
2025.3.16
2035年。
生成AIの進歩により
『卒業アルバム』が廃止された。
原因は卒業アルバムの顔写真の
悪用から始まった。
クラスの美人をAV女優の顔に
移し替えるという悪質行為のみならず、
販売までしていた同級生が摘発された
ことから問題視された。
イジメのツールとしても悪用され、
人前に出られなくなった子もいた。
こうなるまでに、色々対策はされた。
苦肉の策として、
生徒の手書きの感想文や寄せ書き、
イラストなどを全面に配置した
卒業アルバムも作られた。
しかし、これも
進歩したAIには「良い材料」となった。
筆跡がコピーされた。
まるで本人が書いたように生成したのだ。
当然、イジメや濡れ衣のツールとして
悪用する者が出たので廃止された。
『学生の思い出』として
学校が残せるものがなくなった。
ある教師が
「記念にせめて一本の木を植えましょう」
と提案した。
しかし、
「卒業生が有名人」だった年、
その木は勝手に伐採され、
『某有名人の卒業記念の木』
としてネットで販売され問題となり
廃止された。
そして、2045年。
顔、声、筆跡、体臭、指紋など
全てが悪用される世の中になった。
それにともない、
様々な法律が作られた。
しかし、
国の管理は相変わらずズサンである。
流出しても一向に責任をとらない。
中には巧妙過ぎて偽物なのかどうか
判断できず、冤罪で何年も
投獄されている人もいる。
「昔は顔や肌を出して、
太陽の下で思いっきり駆け回った」
と、今の子供に言っても
「信じられない」という顔をする。
歳をとった私。
昔は顔や身体を隠して他人と距離を
とらなければならない世界なんて
『ウイルスで汚染された世界』
『核戦争後の世界』
しか想像できなかった。
ウイルスや核戦争でもない、
まさか人間のモラルが崩壊した世界が
こうなるとは思いもしなかった。
心のざわめき