特別な夜
「あぁ~緊張する」
今僕は、慣れない服に身を包み、鏡の前に立っていた。
「着方、変じゃないよな」
僕が着ているのはスーツ。着る機会などほぼないから、念入りに鏡を見ながら身だしなみをチェックしている。
「大丈夫だよな」
こんな格好をしてこれから僕が行くのは、ドレスコードのあるお店。彼女と付き合って、初めての彼女の誕生日。平日ではあるが、夜は会えるということで、2人にとって特別な夜にしたくて、予約した。
「そろそろ行くか」
最後に鏡で姿を確認し、待ち合わせ場所へ向かうのだった。
海の底
「うわー、キレイ」
夏に行きたい、おすすめの場所。
というテレビ番組をキミと見ていると、画面いっぱいにキレイな海面が映る。
「砂浜に近い場所は海の水がキレイだけど、海の底ってどうなってるんだろうね」
と、不意に聞かれるが
「海の底かぁ…」
光が届かない海の底。
どれほど深いのか、どうなっているのか想像もできない。
「どうなってるんだろうね。見てみたい気もするけど、闇が広がっていそうで怖いなぁ」
「そうだね。誰も見たことのない世界を知るのは、わくわくもするけど、ドキドキもしそう」
2人で顔を見合わせ苦笑したあと
「今度海に行こうか」
「うん」
海に行くことにしたのだった。
君に会いたくて
「はぁ」
ソファに寝転がり、スマホを見る。
見たいものがあるからではなく、暇つぶしに。
「…つまんねえな」
なんとなく見ているだけの画面。自分の気になる情報もなく、ため息だけが増えていた。
「今頃君は、頑張っているのかな」
思い浮かべるのは大好きな君。
できるなら毎日でも会いたいけれど、しばらく会えていない。
というのも理由は簡単で、君の会社の繁忙期だから。
「あぁ、会いたいな」
もう少しすれば、忙しいのも終わるから、それまで待ってて。
という君の言葉を信じ、その時を待つ。
「…君が頑張ってるのに、俺は…そうだ」
ゴロゴロしてる場合じゃない。
君に会えたとき、お疲れさまの労いをするために、手料理を振る舞おう。
料理は初心者だけれど、今から頑張れば。
君に会いたくて仕方ない気持ちを心の奥に封じ込め、俺は料理の練習をしようと決めたのだった。
閉ざされた日記
「よしっと。次は…」
普段はササッとしかしていない掃除。今日は時間が取れるので、普段より細かいところも掃除していた。
「あー、本棚の本。ほこりがたまってるなぁ」
お掃除シートで丁寧にほこりを落としていると、少し厚みのある冊子に目が留まる。
「…懐かしいなぁ」
掃除の手を止め、その冊子を手に取ると、パラパラとページを開いてみる。
「ああ、こんなときもあったよなぁ」
手に取ったその冊子。それは、旦那と結婚する前に書いていた日記で、当時付き合っていた旦那への想いも書いてあった。
「…しまっとこ」
今は使われていない、閉ざされた日記。
今度ゆっくり、読み返そうと思うのだった。
木枯らし
「今日は風が強くて寒いね」
彼と一緒に、彼の家族であるワンちゃんの散歩に出た。
「そうだね。木枯らし1号が吹くかも。って言ってたな」
そう言いながら、私の右側にいた彼が左側に移る。
「?」
何で移動したのかな?と首を傾げていると、絨毯のように敷き詰められた木の葉が、舞い上がるくらい強い風が吹いた。
「わっ…あれ?」
木の葉が舞い上がるくらい強い風なのに、私はほとんど風を感じていないことに気付く。
「どうかした?」
私に笑顔を見せる彼の髪が、風に揺れているのを見て
「ううん、何でもない」
彼が、風から私を守るために移動したと知る。
「寒いから、手をつないでもいい?」
「うん」
彼に、ありがとうと大好きの気持ちが伝わるように、私は彼の手をギュッと握ったのだった。