「…聞いてもいい?」
いつもとは違い、神妙な面持ちで、キミは俺に話しかける。
「いいけど、何?」
どうしたんだろう。不思議に思いながら返事をすると
「私とのこと、どう思ってる?」
キミは真剣な目を俺に向けた。
「そ…れは」
言い淀む俺に構わず
「私はあなたとずっと一緒にいたいと思ってるよ。けど、あなたの気持ちがわからなくて…」
キミは本音をぶつけてくる。
「…ごめん、ちゃんと話すね」
そんなキミに向き合わなければ。と、俺は重い口を開いた。
「俺も、キミとずっと一緒にいたい。結婚したいと思ってる。けどね、俺は渡り鳥みたいな転勤族。いつどこに行ってくれ。って言われるかわからない。それに、キミを巻き込んでいいのかわからないんだ。…そうわかっているのに、キミと別れたくなくて、言い出せなかった。キミの大切な時間を、ムダにさせてしまって、本当にごめん」
頭を下げると
「話してくれて、ありがとう。私を、あなたが羽を休める場所にしてくれますか?」
キミは微笑む。
「…ありがとう」
キミの言葉がうれしくて、キミをギュッと抱きしめたのだった。
ひらひらと、桜の花びらが風に舞う。
「キレイだね」
桜の木を見上げ、キミはつぶやく。
「そうだね」
キミに合わせて僕はそう言ったけど、風に舞う桜の花びらよりも、長い髪がさらさらと風に揺れるキミの横顔を、僕はずっと見つめていた。
大好物のお菓子を手に持ち、ゆっくりとした動作で口に運ぶ彼女。
「これで最後…」
自分に言い聞かせるように呟くと、最後の1つを口に入れる。
「うん、美味しかった。明日からは我慢だ」
そう言うと拳を握りしめ、お菓子の空箱をゴミ箱に捨てた。
「頑張ってね」
「うん」
明日からダイエットをする。という彼女。
彼氏である俺は、彼女が痩せても、今のままでも彼女を好きなことには変わりないし、正直どっちでもいいと思っている。
ただ、彼女が頑張るというなら、彼氏として、協力と応援はしてあげたい。
彼女を見つめながら、そう思うのだった。
そっと包み込んで 歌 やさしい雨音 君の名前を呼んだ日 です
そっと包み込んで
何でも話せる仲の良い友達。
それ以上でもそれ以下でもない。
そう思っていたのに、僕の目の前で泣くキミを、抱きしめたい、そっと包み込んで守りたい。と思うのはどうしてだろう…。
自分の気持ちに戸惑いながらも、涙を流すキミを僕は抱きしめたのだった。
歌
キミと買い物をしていると、店内に流れている歌が聞こえる。
「あ、この曲。最近よく聞く曲だわ」
キミがそう言うので、知ってる曲かな?と、歌に耳を傾けると
「ああ、ホントだ。聞いたことある」
僕でも聞いたことがある曲だった。
「この曲、好きなの?」
何気なく聞いてみると、キミは左右に首を振る。
「そうなの?よく聞く曲なんでしょ?」
「うん、よく聞く曲だよ。いろんなとこでかかってるから。でも、自分では聞かない。…この曲、大好きな人との別れの曲だから」
キミは僕から目をそらし、悲しそうな顔をする。
「そっか」
僕はキミの手をそっと取ると、繋いだ手に力を込めたのだった。
やさしい雨音
「はぁ、疲れたな」
時計を見ると、23時を過ぎている。
「しかも…雨かよ」
会社の玄関から外を見れば、パラパラではあるが、雨が降っている。
「まあ、折りたたみがあるからいいけど、駅まで歩くのがなぁ」
面倒くさい。と思いながら、折りたたみ傘を開き、俺は駅へと歩き出した。
「こんな時間なのに、明るいしにぎやかだな」
残業でこんなに遅くなることはなく、知らなかったけれど、この時間でも外は昼間のようだ。
「雨、降ってるかわからないや」
傘に打ち付けているはずの雨。けれど、音は一切聞こえない。
「疲れてるときに、この騒がしさはキツイな」
俺は、駅までの道を裏道から行くことに決め、歩を進めた。すると
「あ、雨の音」
さっきまで聞こえなかった雨の音が聞こえてくる。
「サーサー、パラパラ…」
静かな道に、響く雨の音。
「…何か、癒される」
やさしい雨音を聞きながら、駅までの道を歩いたのだった。
君の名前を呼んだ日
「好きです、付き合ってください」
君と付き合ってしばらくの間、君を苗字で呼んでた。恥ずかしくて。けど、君の名前を呼んだ日。
胸がドキドキしたけど、今まで以上に君のことが大好き。って思えた。
僕の名前を呼んでもらえた日。胸が幸せでいっぱいになった。
大切な君の大切な名前。これからも大切に呼ぼうと思った。
Sunrise 昨日と違う私 です
Sunrise
朝を知らせるSunrise。
外が明るくなると、1日の始まりだ。と新鮮な気持ちになる。けれど、始まりは同じようでも、終わりは同じではない。楽しく過ごせるときもあれば、彼女とケンカして落ち込むこともある。同じような毎日でも、同じ日はない。
だからこそ、1日1日を大切にしようと思う。
昨日と違う私
生まれて初めて彼氏ができた。うれしいけれど、ステキな彼に、私が釣り合うのか自信がない。
だから、彼の隣を歩いても彼も私も恥ずかしくないように、キレイになれるように努力しよう。
昨日と違う私を彼に見てもらいたい。もっと好きになってもらいたい。
恋をするって、こんなにも心が揺れるものなんだね。鏡を見ながら、メイクの練習をするのだった。