またね! はじめまして 空に向かって です
またね!
「またね!」
と手を振り、みんなと別れた卒業式から10年が経った。
「地元にいるのに、友達以外の同級生に会わないんだよなぁ、不思議と」
と思っていたら、同窓会の知らせが届いた。
「同窓会か。みんな来るかな。来るといいな」
俺が覚えているみんなは、学生のまま。その姿が、同窓会で大人へと更新される。
「楽しみだなぁ」
もしかしたらそこで、彼女ができるかも…。
「よしっ」
みんなに会ったときにカッコいい姿を見せようと、体を鍛えることを誓った俺だった。
はじめまして
「はじめまして」
から始まった僕の恋。友達にも教えることなく、誰かに知られることなく、僕の心の中で少しずつ大きくなっていた。
「どうしようかな、この想い」
もちろん、キミに伝えるのが良いと思うし、伝えたいという気持ちはある。けれど、キミの隣はすでに埋まっているから、伝える僕はスッキリしても、伝えられるキミは迷惑なんじゃ。と思ってしまう。
「どうしたらいいんだろう」
迷った僕は、頼れる友達に相談することに決めたのだった。
空に向かって
両手をぐっと、空に向かって伸ばしたら、空を自由に泳ぐ雲を、つかまえられないかな。
もしつかまえられたら、その雲に乗って、新幹線の距離に住むキミに、今すぐ会いに行けるのに。
「こんなときに、キミのそばにいれないなんて…」
毎日しているキミとの電話。気づかれないようにとキミは明るく話していたけど、元気がないのは明白で。
「こんなときにそばにいてやれない俺が、キミの彼氏と名乗っていいのか?」
自分に向けた問いの答えは当然
「いいわけねえだろ」
に決まってる。
「よし」
今はもう新幹線が動いている時間ではない。
明日の朝一番の新幹線に乗り、キミに会いに行くと決め、俺は早く寝るのだった。
涙 と 春風とともに です
涙
ハラハラと零れ落ちる涙が、キミの頬を濡らしてく。
そんなキミを目の前に、俺は何と言っていいのかわからず、口をつぐんでいた。
けれど、泣いているキミをそのままにしておくことなんてできないから
「ごめんね。俺、キミを慰める言葉が見つけられない。だから、思い切り泣いて、泣き止んだら、俺に笑顔を見せてほしいんだ」
キミをギュッと抱きしめ、泣き止むまでずっと優しく、髪を撫でていたのだった。
春風とともに
「遅れてごめんね」
春風とともに届いたキミの声。
「ん、大丈夫だよ」
春風のように温かく、僕の心をふわりと包んでくれる。
春風に舞う桜の花びらのように、風に乗って遠くに行かずに、ずっと僕の隣にいて。
と、願わずにはいられないほど、キミが大好きな僕だった。
毎日、忙しく仕事をこなす中、僕が感じる小さな幸せは、休憩中に缶コーヒーを飲むことでも、家に帰ってからの晩酌でもなく、仕事中に交わすキミとの会話。
僕にとって、高嶺の花であるキミと話せたら、それだけで幸せ。
それだけ?と言われそうだけど、僕が仕事に行く、理由の1つになっているのは間違いない。
これからも、キミと会話するのを楽しみに、仕事に行こうと思います。
「すごくキレイ」
青空が広がり、散歩するには快適。という今日、キミと公園に来た。
「ホントだね。まさに、春爛漫って感じ」
公園内を進むたび、いろいろな種類の花たちが大きく花を咲かせ、来た人たちを歓迎しているようだった。
「今日は温かいし、気持ちがいいね」
「そうだね、少し暑いくらい…」
とそこで、キミは足を止める。
「どうしたの?」
一歩先にいる僕が振り返ると
「…春から夏って、だんだん暑くなっていくとさ」
「うん」
「汗をかくでしょ」
「まあ、そうだね」
「そうするとさ」
「うん」
「手、つなげないなって…」
キミは俯く。そんなキミの言葉にクスッと笑うと
「何で笑うの」
顔を上げたキミが、僕を睨みつける。
「ごめんごめん。かわいくてつい」
なだめるようにキミの髪を撫で
「キミがイヤじゃなければ、僕はいつでもキミと手を繋ぎたいよ」
手を出すと
「イヤじゃないから、手を離さないでね」
キミは僕の手を取り、微笑むのだった。
「ねえ、見てみて」
雨上がりの空を、キミは指差す。
「おっ、虹か。でかいな」
「ホントに大きいね。しかも、七色がはっきりしてて、すごくキレイ」
キミはスマホを取り出し、虹に向ける。
「ねえ、知ってる?」
キミは写真を撮りながら、僕の方をちらりと見て
「カップルが一緒に虹を見ると、2人の関係が進むかも…なんだって」
顔を赤くする。
「へえ、そうなんだ。でも…」
僕はキミを後ろから抱きしめ
「虹を2人で見ていなかったとしても、キミを手放す気なんて、全然ないよ」
そう告げると、キミの顔は、さらに赤くなるのだった。