「1つだけ、残ったね」
美味しいと評判のクッキー。
「一緒に食べようと思って買ってきたよ」
と、持って来てくれた。
「ありがとう。コーヒー入れるね」
2人分のコーヒーを入れ、早速いただく。
「美味しい」
「うん、美味い」
手が止まらなくなるほどの美味しさに、クッキーは一気に減っていく。そして
「1つだけ残ったね。最後の1つ、食べて」
キミは最後の1つを俺に差し出す。
「ありがとう。でもさ」
俺はクッキーを受け取ると、それを2つに割り
「一緒に食べたほうがさらに美味いよね」
割った片方をキミの手に乗せる。
「そうだね。ありがとう」
こうして、最後の1つを仲良く食べたのだった。
「あなたの大切なものってなあに?」
のんびり過ごす休日。テーブルで3時のおやつを食べていると、目の前のキミが不意にそんなことを聞いてきた。
「何?急に」
ドーナツを食べる手を止め聞き返すと、今読んでいる雑誌に、あなたの大切なものは何ですか?というアンケートの結果が載っている。とのことで、俺にも聞いてみたそうだ。
「うーん、そうだなぁ」
ドーナツを一口かじり
「アンケートの結果はどうなの?」
気になったので聞いてみると
「お金だって」
と言われる。
「ふうん、お金ねえ」
ドーナツをもう一口かじり、飲み込んだあと、俺は口を開く。
「確かにお金は大切だけどさ、俺の大切なものは、キミとの生活かな」
「私との生活?」
「そう。愛するキミがここにいてくれる。一緒に笑ってくれる。同じ道を歩いてくれる。本当に毎日幸せで、かけがえのないものなんだ。そのかけがえのないものを失わないために、仕事も頑張れるんだよ。だからさ」
俺はキミの手を取り
「一緒にいてくれてありがとう」
笑顔を向けると
「こちらこそ、ありがとう」
キミも微笑んでくれたのだった。
「4月1日。今日はエイプリルフールです。○○さん、何か嘘をつきましたか?」
ソファに座りぼんやりしていると、何となくついているテレビから、そんな言葉が聞こえる。
「エイプリルフール…ね」
あくびをしながらちらりと横を見ると、キミは雑誌を読んでいた。
「せっかくだし、何か嘘ついてみようかな」
そう思い、キミの方に体を向けると
「ねえ」
声をかける。
「ん?なあに?」
雑誌から顔を上げ、こちらを見たキミに
「ホントは、大嫌いだよ」
と言おうと口を開きかけたけど、この言葉を言ったとしたら、エイプリルフールの嘘だとわかっても、キミは悲しい気持ちになるんじゃないか。自分が言われたら、嘘だとしても絶対に傷つく。大好きだからこそ、嘘でもこんなこと言っちゃダメだ。
そんな思いが頭をよぎり
「コーヒー入れるけど、飲む?」
嘘をつくことをやめたのだった。
「幸せにします。僕と結婚してください」
プロポーズの言葉を伝えた僕にキミは嬉しそうに笑う。
「はい。よろしくお願いします」
キミの返事に喜ぶ僕に
「でもね」
キミは言葉を続ける。
「私を幸せにしてくれるだけじゃダメなんです」
「え?」
幸せにする。だけじゃ足りなかったのか。と戸惑う僕に
「あなたも幸せになってくれないと」
キミは優しく微笑む。
「私の幸せは、あなたも幸せでいること。なんです。だから、私もあなたを幸せにします」
言われた言葉が嬉しすぎて、胸がいっぱいになる。
「キミが笑ってくれるなら、それだけでいいと思ってました」
僕の言葉にキミは首を振り
「あなたに辛い思いをさせて、私が笑顔でいるなんて考えられません。一緒に幸せになりましょう」
僕の手を握り笑うキミの手を、僕は強く握り返し頷いたのだった。
「ありがとう」
「ん?何が?」
「これ、差し入れてくれて」
もらったペットボトルの紅茶を開け一口飲むと、乾いていた喉が潤う。
「ああ、別に」
ベランダの手すりに寄り掛かり、彼は吸ったタバコの煙を空へと吐き出す。
「ムリすんなよ」
二人しかいない静かな屋上。彼はそう言うと、私の頭に手を乗せる。
「え?」
驚いて彼の方を振り向くと
「何気ないふりして笑ってるけど、俺にはわかるよ」
よしよし。と、労うように頭を撫でられる。
「ここには俺たちしかいない。我慢すんな」
優しい声で呟かれたら、もうダメだった。泣かないようにと頑張って作っていた笑顔が崩れる。
「ほら、俺の胸貸してやるから」
彼は私を抱き寄せると、私が泣き止むまで優しく背中を擦ってくれたのだった。