雨、振ってるなあ
つぶやく声は雨に吸収されて僕だけに留まる。
あの時みたいだ。
吹き抜ける風が僕の首筋を撫であげて
それと酷似した君の体温を思い出す。
空を見上げて、
横顔を見て、
こっちを見た瞬間にまた空を見て、
大して興味のない星の話を君がするだけで
いつまでも聞くことができた。
熱く語ったことをいつも謝っていたけど、
君の声に触れてる時間がとても幸せだった。
君に夜中に呼び出されるのはいつものことで、
それは晴れて星がよく見える日だった
僕は星ではなく君に会うために家を抜け出していたから
何も気が付かなかった
その時だけ
曇で、今にも雨が降りそうな空だったなんて
消え入りそうな声で僕の名前を呼んで
それは変わらず美しい声で、
僕に何かを求めてて、
君がこちらに手を伸ばすことを天が遮るように雨が降り始めて
君は何かを吐き出すように口を動かし、顔を動かした。
子供の僕には何もわからなかったけど、
いつも穢れることのない、屈託のない笑顔。
それが歪むのがどれほど美しいかだけは理解できた。
雨が強くて声が全然聞こえない。
僕は君に
「 ______ 。」
この言葉はきっと君には届かなかったのだろう。
声を届けるために君に近づく。
君は一歩後ず去る。
あっ
僕は何もわからない。
君の小さな叫びもきっと雨で聞こえなくて、
君の後ろに見える"赤"が雨で薄まって
白くて綺麗だなとか
君はこんな時でも空を見上げるんだなとか
そんなことを考えているうちに雨は止んで。
僕は君のもとまで気をつけて降りて、
横に寝転び、
君の方を向いてもう一度呟く。
「君のその顔綺麗だね。」
高揚した頬を抑さえることはできず、
そのまま暫く眺めたあとにそっと抱きつく。
柔らかい肉と冷たさと、"赤"の匂いが
僕の記憶に深く刻みつくようにじっくりと味わった。
その日の雨とよく似た今日。
君に会いたくなる。
家を抜け出す。
また、
君の存在を感じるために。
だけどきっと、あの日みたいに雨が止んで星空が見えることはないだろう。
いつだって君は僕の腕の中にいた。
小学生の時も
お風呂に入った時も
遠足の時も
修学旅行のときも
喧嘩した後も
いつだって、
どれだけ大きくなろうとも君はずっとそばにいたし、
それ以外の考えが浮かぶはずがなかったんだ。
大学が違うだなんて思ってもいなかった。
君は僕から逃げようとした訳じゃない。
“ちょっと”だけ間違えちゃっただけで、
僕だって怒っていないんだよ。
間違いは誰にでもある。
ぎゅっと君に回す腕に力がこもって、君は苦しそうな顔をする。
そうだよね、君だって離れるのは嫌なんじゃないか。
僕の想いが伝わってよかった。
言葉に出さなくったって僕には伝わるよ。
きっと君もそう望んでいるのだろう?
だってもう反対する声は聞こえないのだから。
あれ、
どれくらいだろう?
どれくらい、
僕は君の声を聞いていない?
少しくらい話してくれてもいいんじゃないかな、
冷え性の僕を温めるために腕の中におさまった、
子供の頃のやけに体温の高い君。
いつから、
こんなに冷たいのだろう ?
僕はぎゅっ と 、ひんやりとしたツボを抱きしめ、
「ねえ、話してよ。」
僕の問いに答える君の声は聞こえず、
ツボの中の“軽い何か”が
カサッ と擦れ合わさる音を鳴らした。
きっとこれで大丈夫。
これでいい。
これが正しいんだ。
「それでいいんだよ。」
それだけの君からの肯定が僕には一生届かない。