アカサキオキ

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11/3/2024, 9:59:40 AM

 おとぎ話をしよう。きみが眠りにつく前に。

 昔、あるところにお姫様がいたんだ。きれいな髪でかわいいお顔立ちのお姫様だよ。仕草もとても美しい。
 うん? きみはもちろんかわいいよ。きみよりかわいいかは、どうだろうね?
 話を戻すよ。お姫様は、ある王子様と婚約していたんだ。大人になったら結婚しましょう、という約束だよ。

 けれど、その約束は果たされなかった。王子様が、お姫様とは別の女の子と結婚したい、と言い出したんだ。
 そう、よく知っているね。おうちとおうちの約束だから、王子様のお父様である王様と、お姫様のお父様である公爵様がお話合いをしたんだ。お姫様は、公爵家のお姫様だったんだよ。
 さいごには、王子様とお姫様は結婚しないことに決まった。王子様はお姫様より別の女の子が良かったし、お姫様だって他の女の子と結婚したいと言うような王子様は嫌だったのかもしれない。

 お姫様はずっと人に囲まれていたけれど、王子様との婚約がなくなってからは、まわりに人がいなくなった。
 お友だち? お友だちではなかったと思うよ。お姫様と近付くことで、お姫様のおうちや、王様たちからいいお話を聞きたかっただけだと思う。いいお話については、もう少し大きくなったらお話しよう。
 お姫様はひとりぼっちだった。だから、のけ者にされていた騎士も近付くことができた。
 のけ者の騎士もいるんだよ。仲間はずれだったんだ。
 その頃の騎士は、お姫様が好きだったわけではないけれど、お姫様のことを、とても美しいと思っていた。お姫様のお家の力があれば、偉くなることができるとも考えた。
 そんな理由で、お姫様に近付いた。

 騎士は、お姫様と会う機会を得た。何度かお姫様と会ううちに、お姫様のことが好きになってしまった。
 そうすると、騎士はお姫様に会えなくなってしまった。
 お姫様が嫌がったわけでもないし、公爵様に断られたわけでもない。騎士は好きだと思ったから、お姫様のお家と縁付こうとしたことを恥じた。

 しばらくお姫様と会わない日が続いた。けれど、ある日お姫様から呼び出された。騎士はその呼び出しを断れなかった。お姫様の立場が上だったからだ。
 久しぶりに会ったお姫様は、とても美しかった。けれど、悲しそうな顔をしてみせた。そう、わかりやすく悲しいと、あえて表現していた。
 騎士の話を聞いたお姫様は言った。

 わたくしを使えばよろしいのよ。わたくしを好いてくださる方のためなら、わたくしの家の力を使うことを厭わないわ。

 わたくしもあなたとともにいたいの。


 お姫様は騎士と結婚し、ひとりの娘を産み、幸せに暮らしている。


11/1/2024, 9:44:43 AM

 彼女が願った理想郷。完成された世界。
 わたしはそれを受け入れられなかった。彼女にとっての理想郷に発展が見られなかった。

 完成した社会、世界はどのようなものなのだろうか。人は、社会は、世界は成長を、発展をする余地はないのだろう。
 それは確かに理想かもしれない。
 ただ、わたしにはそれが受け入れられない。

10/27/2024, 1:21:21 AM

 扉の向こうの冷蔵庫の音、浴室乾燥の音。そして目の前のパソコンの稼働音。それ以外は静かな部屋に突如響いた電子音。スマートフォンを見ればメッセージが届いていた。
『今日行っても良い?』
部屋の状態を確かめたのは一瞬。了承の返事を送る。すぐに既読がついたのでそのまま画面を開いていると絵文字だけ送られてきた。ふっと息を吐いて同じように返す。この画面を通して、同じように笑顔でいるといい。

 ふたりだけの合言葉。
変わらぬ愛を、いつまでもあなたに。
いつだか、願いを込めた言葉。

 ふたりを繋ぐ愛言葉。

10/26/2024, 9:52:58 AM

 きみは友達。
そう言い聞かせている。きみが友達としか思っていないことはわかっている。

 友達という壁。
その壁を壊したい。距離を縮めたい。この気持ちに気付かれてはいけない。
 もどかしい。苦しい。同じ思いを抱えていればいいのに。
家の中で吐露する言葉は自分以外には知れない。自分以外聞いていない。

 吐き出したあと、あえて言葉にする。言い聞かせるように。
 きみは友達。

9/19/2024, 11:47:30 PM

 自分の体の時の進みがもう少し遅ければいいのに。いっそ止まるくらいでもいいのに。
 その言葉に目の前の人物は目を瞬いた。


 自分と変わらない年頃に見えるのに、その実ゆうに数百年は生きているあの人。魔力があるが故に長命なのだという。人に紛れながらひっそり生きて、頃合いを見て引越すのだと言っていた。
 たまに同じように長く生きる人や人に紛れたエルフなどと出会すこともあるという。そのときはともに過ごすのかと問えば人によると返された。ただ、長命の者同士でいることは少ないとの共通認識があるらしい。

 人と生きる方が楽しくて苦しくて幸せだと。

 苦しみなんて感じない方がいいのではないかと尋ねるとあの人は首を傾げた。発言を思い返しつつ同意はされないにしても一定の理解を示す言葉は得られる可能性を抱いていた。だから、あの人の仕草に戸惑いながら言葉を待っていた。何と言うのだろう。

 人と生きる以上避けられないことだよ。苦しみを感じることをわかっていても人と生きることを選んでしまうんだ。苦しみに耐えかねてひとりでいることを選ぶのもいるけどね。
 理屈ではない、と言った。人に頼らずとも生きてはいけるだろうけれど世捨て人にはなれない、それが魔力を持つ者だと言っていた。別れを繰り返すとわかっていてなお、人と親しくなり、長くとも数十年のうちに別れ、悲しみに暮れて過ごす。長命ではないから真実を知らないが、狂ってしまわないのだろうか。長命の者同士でともに過ごすことがまったくないわけではないのなら、自分がそうなって、ずっと共に在れたらよかった。


 冒頭に戻る。出会って十数年経過した。見た目は同年代になっただろう。出会った頃は年の離れたきょうだいか、親戚に見られるばかりだった。今でもきょうだいかと尋ねる声を聞くが、恋人同士かと問われることのほうが多い。

 きみの体の時が進まない、なんて、それはきみが死を迎えたときにしか起こり得ないよ。
 あの人は言った。あの人と同じ時を生きたくて零れた言葉をあの人は拾い上げた。言われてみればその通りだ。時は止まることなく流れている。自分にもあの人にも流れている、体感する速度が異なるだけで。

 この一瞬は、等しくこの瞬間でしかない。きみと生きる長さが違っても、それは変わらないよ。


 嗚呼この瞬間が永遠であればいのに!


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