<ずっと一緒にいよう>
1000年先も、この時を繰り返しているのだろうか。
私は、何度もあの手で首を絞められている。
一緒に触れ合った手で
一緒に抱き合った手で
一緒に繋いだ手で
あなたは何度も私を殺した
ずっと一緒にいたいって願った私が悪いのか
意地悪なかみさまが悪いのか
ひねくれた愛が悪いのか
そう思ってももう遅い
愛していたあの手が迫ってくる
ずっと一緒にいよう
<私を忘れないで>
かくばった指先で、青色の花びらを掬うように触れる。彼女の好きな花で、2人で住んでいたアパートの狭いベランダは、勿忘草の鮮やかな色で埋め尽くされていた。とても懐かしくて、涙が込み上げた。輪郭がぼやけ、視界が青と緑だけになる。ぼろぼろ、ぼろぼろと溢れる涙は、葉の上をやさしく転がる。手の甲で涙を拭うと、再び花びらに触れた。美しく可憐な花は、彼女に似ている。僕もまた、この花を愛していた。指先で花をちぎり、唇に乗せた。とても柔らかかった。やっぱり、彼女に似ている。
彼女が亡くなってから、もう何年も経つ。でも、僕はまだ彼女を忘れられなかった。この花をずっと育てているせいだ。この花を見るたびに、触れるたびに、彼女の微笑みが、肌の温かさが、鮮明に浮かぶ。
この花のせいだ。この花のせいで、僕はまだ彼女に狂っている。この花のせいだ。この花のせいで...。乱暴に花を掴む。ざわりと風が起きる。花が音を立てて揺れた。はっとして、すぐ手を離す。首を絞めているような感覚だった。僕はいつまでも、彼女とこの花を重ねている。手に青い花びらが張り付いていた。
8年前も君の隣でブランコをこいでいた。
ブランコの軋む音と、地を蹴る音が懐かしい。
地を蹴るうちに、ブランコはだんだんと高く飛ぶようになる。よく君と高さを競ったり、靴を飛ばしたりしていた。靴を汚して、怒られていたなあ。
時が経つと、僕たちはだんだん一緒に遊ばなくなっていった。中学にあがるともう話すこともなくなっていた。でも、まだ君が好きだった。僕の隣で、楽しそうにブランコをこいでいた君が。
1年前、君は1人でブランコをこいでいた。
相変わらずブランコの軋む音と、地を蹴る音が静寂に響いていた。
6年前の元気は全く感じられなくなっていた。君は、長い髪をゆっくり揺らしながら、俯いて足で地面を撫でるように軽く蹴っていた。
何かあったのかと、そんな君が心配で、不憫で、耐えられず、僕は3年振りに声をかけた。
最初、君は驚いていた。もうずっと話していなかった。正面から改めて見ると、6年前のような幼さはもうなく、もう自分も彼女も、もうすぐ大人になるんだと感じた。
「どうかしたの」ブランコに腰をかけながら言った。もう6年前のように軽く話せなくなっていた。顔を合わせながら話すのが恥ずかしくて、そっぽを向きながら言った。
堰を切ったように、彼女は泣き始めた。泣き方は、昔と変わっていなかった。子供っぽくぐぜりながら、ひとことひとこと喋っていく。話をまとめると、彼女は恋人に浮気されていたらしい。そのことを恋人に問い詰めると、あっさり振られたんだとか。美代子の純真さを踏み躙る男の態度が許せなくて、僕は一緒に泣いた。2人に手に、ブランコの錆がこびり付いていた。
一通り話終わると、もう辺りは暗くなっていた。家の近い僕らは、一緒に帰ることにした。
「こうちゃん、話聞いてくれて嬉しかった」
2メートルぐらい先を行く彼女が、振り返り、いった。
「もうずっと話してなかったけどさ、これからはもっと話そう。また私の話、きいて」
逆光で彼女の顔は見えなかったが、きっと6年前のような笑顔をしていたのだろうと思う。
それから、僕らはまた話すようになった。受験期で忙しく、面と向かって話すことはあまりなかったけど、通話は毎日のようにしていた。いつの間にか昔のように軽く話せるようになっていた。
彼女もまた西高校を受けるらしかった。もし2人とも受かって、同じ高校に行けるようになったら告白しようと決めた。
2人の願いは叶い、同じ高校に通うことになった。
今日、僕は君を呼び出して君の隣でブランコをこいでいる。僕はバクバクする心臓を落ち着けるために、桜の匂いがする空気をゆっくり吸いながら、喋り出した。