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<私を忘れないで>
かくばった指先で、青色の花びらを掬うように触れる。彼女の好きな花で、2人で住んでいたアパートの狭いベランダは、勿忘草の鮮やかな色で埋め尽くされていた。とても懐かしくて、涙が込み上げた。輪郭がぼやけ、視界が青と緑だけになる。ぼろぼろ、ぼろぼろと溢れる涙は、葉の上をやさしく転がる。手の甲で涙を拭うと、再び花びらに触れた。美しく可憐な花は、彼女に似ている。僕もまた、この花を愛していた。指先で花をちぎり、唇に乗せた。とても柔らかかった。やっぱり、彼女に似ている。
彼女が亡くなってから、もう何年も経つ。でも、僕はまだ彼女を忘れられなかった。この花をずっと育てているせいだ。この花を見るたびに、触れるたびに、彼女の微笑みが、肌の温かさが、鮮明に浮かぶ。
この花のせいだ。この花のせいで、僕はまだ彼女に狂っている。この花のせいだ。この花のせいで...。乱暴に花を掴む。ざわりと風が起きる。花が音を立てて揺れた。はっとして、すぐ手を離す。首を絞めているような感覚だった。僕はいつまでも、彼女とこの花を重ねている。手に青い花びらが張り付いていた。

2/2/2023, 10:54:12 AM