私には友達がいる。中でも一番仲良しなのが実花だ。
といっても今は絶交しそうなくらいの喧嘩をしている。
喧嘩の内容は本当に些細なことなのだが、口も聞かない状態がかれこれ1週間以上も続いている。
私も実花も意地っ張りだから謝ろうとしている気持ちがあっても素直になれないのだ。
来週の日曜日は一緒にショッピングに行く予定でなかなか予定が合わないからすごく楽しみにしていた。
どうにかそれまでに仲直りしたいと思い、私は明日の朝実花の家に行ってあやまろうと考えていた。
「やだ、怖いわねぇ。」
リビングでテレビを見ていた母が呟いている。
「どうしたの?」
「空き巣よ、この近くなの。貴方も気をつけなさいね。」
「はーい」
次の日、私は実花の家に向かっていた。天気が良くて気持ちのいい朝だった。
ピンポーン
「実花いる?私だけど…この前はごめんね。仲直りしたいの」
『帰って』
ドア越しに実花の声が聞こえる。
「どうして?仲直りしてくれないの?』
『いいから帰って!』
「なんで?顔だけでも見せてよ。」
ガチャ
実花が顔だけを覗かせている。すごく怒っているみたいだ。
「顔は見たでしょ?いいから帰って」
私は何も言えなくなり自分の家へ踵を返した。
どうして?せっかくこっちから謝ったのに!
もう実花なんてしらない
その後、実花が亡くなった。
私が実花の家を訪ねた日、空き巣が実花の家に居座っていたらしい。
実花は逃げようとして玄関まで怪我をしている足を引きずりながら私と話していたらしい。
怒っているように見えたのも痛がっていたかららしいかもしれない。
実花は私を逃がそうとして声を上げていたのだろう。
私はなんとも言えない気持ちになった。
俺は最近夢を見る。
少女の夢だ。
毎日毎日行かないでと泣きながらいっている。
顔は暗くてよく見えないのだが、その少女を見ているとなんだか悲しい気持ちになっている。
もしかして、なくなった娘と重ねているのだろうか。
「おい、どうした?」
友人の雅樹だ。
「最近変な夢を見ててさ…なんか気になるんだよなぁ」
「へぇ。でもタバコ休憩とはいえ仕事中なんだから考え事は後にしろよ。」
「あぁ。」
「あ、そういえばさ来週登山に行くんだけど、一緒にどう?」
「いいな。行こう!」
「決まりな…じゃ、そろそろ戻るか」
その日、夢を見た。
少女の夢だが、いつもと違う。
少女といつもはいない女の人が何も言わずこちらを見ている。とても悲しそうな雰囲気で。
なぜだろう?
登山当日雅樹と待ち合わせをした。
雅樹はスマホを見て待っていた。
「まった?」
「全然、さっさといこうぜ」
昨日、雨が降ったせいか道中、少し床がぬかるんでいた。
「おい、なんでこの日にしたんだよ。危ないじゃないか。」
「仕方ないだろ。仕事が忙しくて今日しか空いてないんだから。気をつければ大丈夫だって。」
雅樹はどんどん前に進んでいく。全然気をつけてないじゃないか。
だが、俺の不安は山頂についた途端吹き飛んだ。
「綺麗だろ?最後に見てほしかったんだよ…」
「? あぁ、来てよかったな」
雅樹崖の近くに進む。
「おい、危ないぞ。ここ柵がないのか?…ん?」
崖の近くに5cmほどの穴が空いている。
「おい、あそこ見てみろよ。珍しい花があるぞ!お前好きだろそういうの。
「本当か!?」
俺はなくなった娘の影響で花に少し詳しいのだが、そう言われると気になる。雅樹もいるし、大丈夫だろう。
「?どこだよ。」
ズルッ
「は?」
俺はぬかるんだ土に足を滑らせた。雅樹も同様に足を滑らせたようだ。
俺の意識はそこで途切れた。
目を覚ますとそこは病院だった。
「お目覚めですか?貴方は崖下に倒れていたんです。幸い、木の枝がクッションになって、命は助かったようです。ですが…ご友人は…」
助からなかったとそう言いたいんだろう。
黙り込んでいる俺をみて一人にしたほうがいいと判断したのか医師と看護師は何かありましたらナースコールをと声をかけて部屋を去っていった。
俺は…真相に気づいてしまった。
雅樹は俺を殺そうとした。恐らく俺が見た穴は看板が刺さっていたのではないだろうか?転落防止用の看板だ。
雅樹は前日に下見にと山を先に登っていた。
そこで看板と柵を…
動機は多分、妻のことだ。俺と雅樹と妻は幼馴染で雅樹が妻を好きなのを知っていたのに…
何も言わないから気にしていないものだと思っていたが…責任は俺にもあるのかもしれない。
妻と娘は交通事故だった。ひき逃げ事故なのだが今も犯人は捕まっていない。
雅樹は俺の幸せを少しずつ壊そうとしたのかもな
少女の夢はこの事を伝えようとしたのかもしれない。
俺は雅樹の事を恨んではいない。
俺も同じことをしたからな。お互い様だ。