脳裏に焼き付いている。
僕の家は片親。これは小説の為に書いているわけじゃない。本当のこと。
三兄弟で、長男とは父親が違う。母が再婚してできたのが僕と次男。でも、再婚した父親はゴミだった。
長男にご飯をあげないことがあった。母と兄を殴った。僕が産まれたての頃。僕と僕を抱いてる母を階段から落とした。生きてて良かったと思う。
ある日母は父が仕事に行った後に逃げたらしい。離婚までには時間がかかった。父が母の実家の前にしばらく来ていたから。母も子供も外に出られなかったから。
僕は、覚えていない。なにも。その時は小さかったから、記憶がない。母が殴られて、兄が弱っているときも僕は泣いていたのかもしれないし、笑っていたのかもしれない。
何も、覚えてない。
ただ、見ていたことは変わらないらしい。脳裏に焼き付いているらしい。
イラつくと、物にあたってしまう。
昔、遊びとして皆で知らず知らずのうちに友達を虐めてしまっていたとき、皆は言葉だけだったけれど、僕は殴ってしまった。
まぶたを閉じると、たまに見える。僕の中には2人の血が入ってる。母だけじゃない。長男とは1つしか血が同じじゃない。
怖い。
そんなことをしていた人と同じ血が入っている。
何やら、虐待されていた子供は大人になると同じことをしてしまうらしい。
怖い。
たまに見えるあの人の血が、僕の。
怖い。
あの人の血を外に出してしまいたい。
怖い。
怖い。
怖い。
父は、最初長男に優しかったらしい。母にも。次男が産まれると、差別的意識か、母への辺りが強くなっていった。段々長男にも当たりが強くなって、殴るようになった。ご飯もあげなくなった。僕が産まれる前も、産まれたあとも続いた。
優しい母と、優しい長男。優しいけれど、優しさが外に出せない不器用な、大好きな長男。
母は、本当に僕を、次男を、愛しているのだろうか、優しかった父を変えた僕達を愛して、いるのだろうか。
怖い。
怖い。
怖い。
怖い。
怖い。
僕はまだ中学生だ。まだ、平気だ。やり直せる。父を記憶から追い出せる。
母が言った。何かあっても、僕はへいきだね。女の子だもん。
きっと、母は主婦になれるという意味で言っていない。分かっている。それくらい。
今はただ、脳裏に焼き付いている記憶を忘れずに、それでいて父を忘れて、母と2人の兄を大切にして、生きていきたい。
自分の性格も、今からなら直せる。平気、誰も殴らない、言い訳も嘘もつかない。逃げないようにできる。
母に少しでも感謝する為に、環境に感謝する為に、死にたいなんてことは、捨てる。
それが僕の脳裏に焼き付いた記憶へのけじめになるはずだよね。
一人称が私から僕になった日に、小学五年生の二学期に、もう決めてた。僕は違う他人の僕になってみせる。
意味がないとこばかり。
絵を描くのをやめて、踊るのをやめて、本を書くのをやめて、その結果がこれ?貴方の為に辞めさせただなんて、嘘ばかり。
幸せそうに絵を描いて踊って本を書く、あの頃の自分に声をかけるなら、なんて声をかけるだろうか。
あなたとわたしの間には何も無い。
私が今話している人は私に向けて嘘を話していて、その人と話していた人は嘘しかつかないとして、この人はあの人が嘘しかつかないことを知らないなら、今話している内容は何処からが嘘で何処からが本当なんだろう。
いいや、あなたとわたしの間には何も無いんだ。何も無い。けれど、あなたが嘘を話すなら、私は
柔らかい雨が止んで、沈みかけの日が目を覚ますと、水平線がね。
水平線が、何時もよりもずっと、強く美しく見える。そういう日は決まって海月が浮いてくる。
"ほら、見える?水平線"
"嗚呼、見えるよ。酷く痛い。水平線だ"
柔らかい雨が止んで、沈みかけの日が目を覚ますと、水平線が見える。そういう日は、決まって必ず君の笑顔の裏にある、すごくお上品で、それでいて冷めている気持ちが見える。
眠りにつく前に今日のことを思い出す。不安の空に描く明るい君の笑顔…君の笑顔の裏には、すごくお上品で、冷めている気持ちがある。ような気がして、いつも家に帰ってから僕は勝手に不安になる。
触ったら消えそうで、夏にも消えそうで、冬に笑いそうな君は、いつか天使の抱擁で死を覚悟するのだろうか。