冬になったら
冬になったら新潟に行こう。二階建ての家の一階が埋まってしまう。南魚沼郡のコシヒカリが絶品の新潟に行こう。ユーミンの音楽と一緒にスキーをしよう。
雪国舞茸で美味しいきのこ汁を食べよう。八海山をちびりちびり飲もう。笹団子と柿の種をたくさん食べよう。
40年前、三年間学生寮で過ごした新潟に行ってみよう。
青春の思い出が詰まった新潟に冬になったら行こう。
はなればなれ
娘が結婚してはなればなれになるのは喜ばしい事だ。
母子家庭のうちは、娘が生まれて半年のときから、保育園に入れて、私は一緒懸命に働いた。狭いアパートで寄り添って暮らしていた。娘がそばにいてくれたら、何でもできた。
大学も行かせて、やっ成人して、私の肩の荷もおりた。
彼氏ができて、結婚しますと聞いた時は本当に嬉しかった。
でも、やっぱり、この狭いアパートから娘が出て、はなればなれになるのは寂しい。
またいつか帰っておいでなんて言えない。言いたいけど、言えない。
「幸せになりなさい。お母さんは大丈夫だから、旦那さんの事を幸せにしてあげるのよ」
と伝え、涙を止める。
子猫
昔、捨てられていた子猫を拾ってきた事がある。親に見つかると絶対に怒られるので、自分の部屋の押し入れの奥にスペースを作って入れていた。
子猫はお腹が空くと泣くんです。
そんな事当たり前なのに、これなら絶対に見つからないと思い、学校にも行った。学校から帰ると、母が押し入れの子猫はどうしたの?と私に詰め寄る。
元のところに置いて来なさい。と言われ、泣きながら置きに行った。飼ってあげるなんていうハッピーエンドで終わらなかったその事実は、私の心の中にいつまでも燻っている。誰かが、きっと飼ってくれていると思いながら。
母が悪い訳ではない。生き物を飼うって本当に大変な事だ。
大人になって自分で犬を飼っている私は、その大変さを知っている。
でも、子猫を見ると幼い頃の事を思い出す。
少し切ない思い出です。
秋風
秋風は冷たい。冬の始まりを告げる風。
帰ってダウンを出そう。
彼と手を繋ごう。
彼の胸で温かく寝よう。
秋風が二人の中を近づける。
また会いましょう
二十三歳の頃、私は乳癌だと診断された。五年の生存率は五分五分。手術が必要と言われ、手術をすると右の乳は全て無くなる。それでも転移があれば絶望的だ。二十三歳で結婚もしていない。生きていられたとしても、いつも再発に怯え、乳がないという劣等感を抱えることとなる。
そんな負のオーラの中、海で一人泣いていると、見知らぬ男性から声をかけられた。
「海を見ていると泣きたくなる時がありますよね。大丈夫ですか?何があったか僕にはわかりませんが、あなたの涙はきっと海が受け止めてくれますよ。そして、あなたを支えてくれるのは海だけじゃない。きっと、たくさんの人が力になってくれます。
はい、コーヒー。
突然、声をかけてすみませんでした。普段はこんな事しないんです。あなたには何故か声をかけたくなってしまいました。
今度また、あなたに会える事があったら笑顔のあなたに会いたいですね。また、会いましょう。」
と言って、彼は去って行った。
あれから五年。右の乳は無くなったが、私は生きている。そしてこれからも生きて行けるような気がする。
あの時の彼が私の横にいてくれるから、、、。私達は結婚した。
生きる素晴らしさと、愛を教えてくれた彼を永遠に愛している。