柔らかい雨
柔らかい雨が、私の頬を撫でる。太陽は薄い雲にかかっているけれど、陽射しは届いている。風はなく、地面も濡れることはない。
真っ白なウエディングドレスが、柔らかい雨と、優しい太陽の光の中、一層、キラキラと光る。
私の隣で彼がにっこり笑う。
チャペルの鐘の音。
二人だけの結婚式。
永遠の愛を誓った私達は、これから何があっても離れる事はない。
彼がそっと頬にキスをする。
愛しています。
永遠に。
一筋の光
ここは狭くて暗い。寒くはなく、温かい。少し前までは水もあり、身体が浮くくらいだったが、その水も急になくなった。
段々とより狭くなり、苦しくなってきた。早くここから出ないと、押し潰されそうだ。
出たい!出たい!後ろから押される感じ。
あーもうダメだ。潰される。そこに、一筋の光。
あそこだ!出口だ!
それー出るぞー!
「オギャー!オギャー!」
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ」
泣いている、女の人。
初めまして、ママ!
哀愁をそそる
彼の横顔は、哀愁をそそる。彼自身は、何の悩みもなく、いつもくだらない冗談ばかり言っている。ただ、ふと見せる哀しげな彼の横顔は、哀愁をそそる。
そんな彼がある日、マンションから飛び降りた。大きな木に引っかかり一命は取り留めた。
彼は
「僕はいつかきっと、誰かを傷つける。衝動を抑えることができなくなってきた。だからその前に、僕を消してしまおうと思った。でも、もう大丈夫。足はもう動かない。僕を殺さないなんて、神様は残酷だ。」
そう話す彼の横顔は哀愁をそそる、、、。
鏡の中の自分
鏡の中の自分は、ほうれい線深く、目尻の皺と髪の生際の白髪、辛うじて歯はあるが歯茎はだいぶ下がってきている。
たくさんの経験と、苦労と幸せな日々の中で、老いていった自分。もう綺麗だよって言ってくれる人はいないけど、特に悲しくはない。今はプチ整形をする人もいるけど、コツコツ貯めているお金は、娘が結婚する時の少しのお祝いと、愛犬の介護の為。
外に出る時は薄く化粧をして、白髪も黒く塗れば、鏡の中の私は少し変わる。歯は大切だから、歯医者に行こう。
自分の見た目や体調の変化も受け入れながら、できる事をやっていこう。仕事も続けて、時々、美味しいもの食べて。気持ちだけは若く保って、老後を前向きに生きていこう。
明日、60歳になる私。
眠りにつく前に
私の人生は華やかではなかったけれど、たくさんの人と出会い、たくさんの愛をもらった。
シングルマザーだったけれど、優しい娘は、優しい旦那様と幸せになれた。仕事も頑張った。いろいろな失敗もしたけれど、皆んなに助けられた。
もうすぐ、私は天国に行く。人を傷つけた事もあるだろうけど、地獄に行くような事はしていないと思う。
永遠の眠りにつく前に思い浮かべるのは、初めて付き合った彼だった。結局、私は彼のことが最後まで好きだった。
私を幸せにしてくれたのは、あなただったかもしれない。
ありがとう。
そして、さよなら。