本気の恋
私には二人の妹がいる、すぐ下の妹は血の繋がった妹であるが、もう一人の妹、シンデレラとは血が繋がっていない。シンデレラは自由奔放で森に行っては動物達と触れ合い、鳥と一緒に歌を唄い楽しそうに過ごしていた。森から帰ってくると汚れた足で家に入るので、いつも注意をして床の掃除をさせてた。恥ずかしいから、もっと綺麗な服を着なさいって言っても、これが楽だからとボロボロの服をいつも着ていた。
それでも、美しいシンデレラを見て私はうっとりしていた。
ある日、お城の王子様から王妃を選ぶ舞踏会の招待が届いた。私達、三姉妹は揃って舞踏会に行くことになった。
当日、朝から綺麗なドレスを着てそわそわしていたが、シンデレラだけはドレスのまま、また森に出かけてドレスを真っ黒に汚して帰ってきた。母は怒ったが、シンデレラは舞踏会には行かないと言って、自分の部屋で寝てしまった。
仕方なく、母とすぐ下の三人で舞踏会に出かけた。
舞踏会には綺麗に着飾ったたくさんの娘達が踊っていた。
そして、王子様の登場。あ〜なんて素敵な方なんだろう。優しい眼差し、誰もが魅力する笑顔、優雅な立ち振る舞い。私は一気に虜になった。
一度でいいから一緒に踊りたい、あなたに触れてみたい。
そこに、美しいシンデレラが入ってきた。王子様は一眼でシンデレラの虜になり、ずっとシンデレラを離さない。
0時の鐘の音、急にシンデレラが城から去っていく。ガラスの靴を置いて。
家に帰った後も、舞踏会のことを思い出す。シンデレラと王子様、とてもお似合いだった。私には敵わない。でも、私は王子様が忘れられない。 シンデレラは王子様と踊ったことを自慢げに話す。
それを聞いている私は胸が張り裂けそうになる。
そして、お城からガラスの靴を持った使者。ガラスの靴を履いたシンデレラはお城に行ってしまった。 シンデレラは王子様と結婚した。
私の恋は終わった。
本気の恋だった、、、。
カレンダー
壁にかけられたカレンダー。一番最後の9月30日の赤い丸い印。
その日、彼と会う約束をしていた。
彼と遠距離恋愛をしていて、もう二年が経つ。彼から転勤の話を聞いて、私は仕事を捨てて一緒に行くことはできなかった。それでも、休みの日に会いに行ったり、電話で声を聞いて私は大丈夫だと思っていた。
しかし、9月に入ったある日、彼から別れを告げられた。他に好きな人ができたと、、、。
頭では仕方ないことだ、ついて行かなかった自分がいけないんだと、自分に言い聞かせていた。
諦めるしかない。でも、カレンダーを見ると約束の赤い丸い印。それを見ると、何を着て行こう、彼とどこに行こうか、彼との甘い夜、彼の温もり、彼の愛の言葉を考えてしまう。
カレンダーを10月にめくってしまおうかとも考えた。でも、この9月は彼との思い出や、彼を心から愛したことを泣きながらでも考えよう。そして、カレンダーをめくった日、10月1日からは凛とした自分を取り戻そう。
きっとできる私なら、、、。
誰かをちゃんと愛することができた私なら、これからだって大丈夫、、、。
そう信じている、、、。
喪失感
母が連れてきた子犬。小さくて暖かい子犬。よちよち歩くその子犬は、兄弟がいない私にとって弟のような存在になった。
暑くても寒くても散歩に行き、寝る時も一緒、時々、お風呂にも一緒に入った。元気がない時は心配し、私が体調を崩した時は寄り添ってくれた。
一緒にたくさん笑った。辛い時、いつも側にいてくれた。
子犬はすぐに大きくなって、そして私よりも早く歳をとっていった。散歩の時間も短くなった。
ごはんもあまり食べられなくなった。
そしてある寒い雪の日、その犬は冷たくなって死んでしまった。
喪失感。心にぽっかり穴があいた。
雪が穴を埋めてくれるだろうか。
雪はたぶんすぐに溶けてまたぽっかり穴が空く。
だから春を待とう。
散歩の時、ふたりで見た桜の下。
きっとピンクの花びらが暖かく穴を埋めてくれるだろう。
世界に一つだけ
自分の価値観を見出すためには世界に一つだけのものをもつことだ。でも、何十億といる人間の中で、自分だけが持っているものって何だろうと考える。
スポーツが得意でも、他にもスポーツを得意とする人は大勢いる。
勉強ができてトップの大学に入っても、何かを成し遂げるためには、一人の知恵だけでは限界がある。世界で一人だけの成功者にはなれない。
では、世界で一つだけってなんだろう。
それは自分自身の人生ではないだろうか。
僕が私が歩んできた人生、そして、これから歩んでいくだろう人生は誰とも同じではない。世界に一つだけのものだ。
だからその世界に一つだけの人生を大切に歩んでいかなければならない。 この世界に一つだけの人生を最後まで諦めずに生きていく。ただそれだけだ、、、。
胸の鼓動
私は老人ホームで働く介護福祉士である。月に5回ほど夜勤がある。ご飯の後に口腔ケアをして、トイレに付き添い、パジャマに着替えさせ、オムツの交換をする。水が飲みたい、トイレはどこ?家に帰りたいと、ナースコールが鳴り止まない。夕方の5時から働いてやっと静かになるのが22時ぐらい。自分達もご飯を食べて、記録を書く。その間にもナースコールでトイレに行ったり、ここはどこ?と起きてくる人がいる。
0時半、2人夜勤のうちの1人が仮眠の時間になり、1人になる。
いつもは1人でナースコールや、起きてくる人の対応をして忙しいのだが、今日は静かだ。
記録を書いている時、ふと、暗い廊下の突き当たりを見る。髪の長い高齢の女性。胸の鼓動が早くなる。もうすぐ午前1時。巡視の時間だ。しかし、金縛りにあったように身体が動かない。
女性がすーっと個室に入っていく。金縛りから解ける。
あの個室は、、、。
急いで行って電気を点ける。その部屋の93歳のYさんが息をしていない。ナースを呼び報告する。
Yさんは看取りの方だった。
するとあの女性は奥様?奥様は去年亡くなられている。
あー迎えに来たんだなー。
奥様と一緒に行ってしまったんだ。奥様と一緒でYさんも怖くないですね。
でも、私は少し怖かったですよ、奥様、、、。「こんばんは」ぐらい言って下さいよ。