麦わら帽子
夏の水難事故が後を経たない。
幼い子供が川に流されたとニュースで流れる度に、恐怖が蘇る。
僕が小学3年生の時、家族4人で夏、キャンプに出掛けた。妹は小学1年生で初めてのキャンプに朝から大騒ぎだった。
キャンプ場の目の前は川で、川幅はやや広いものの浅く流れも穏やかだった。
僕と麦わら帽子を被った妹は、両親が車から荷物を下ろすのも手伝わず、直ぐに川に向かった。
父は
「川にはまだ入るなよ!子供だけで入ると河童に攫われるぞ!お兄ちゃん、ユキをちゃんと見てろよ!」
と言われ、妹のユキの手を握っていた。すると石と石の間にサワガニが動いた。思わず、ユキの手を離しサワガニを探す。ほんの一瞬のつもりだった。気がつくとユキがいない。麦わら帽子が流れていく。
「お父さん!ユキが〜!」
それからの事は覚えていない。父親がユキに人工呼吸をしている。救急車のサイレン。
ユキは一命を取り留めた。
あれから10年、僕は今でも夏が嫌いで水が怖い。麦わら帽子がゆっくりと流れていく光景を忘れる事ができない。
でも、ユキは水泳部に入りオリンピックを目指している。
ユキ!頑張れ!本当に生きていてくれてありがとう!
終点
終点で思い浮かべるものは、電車やバスの終点。人生の終点。
そんな感じだろう。
でも、もうすぐ還暦を迎える私が考えるのは仕事の終点である。
60歳定年制だけど、60歳なんてまだ体は動くし、多少鈍くなっても頭は働く。60歳で定年だけど、まだ使えるから嘱託職員になる。でも、ボーナスは出ない。
神奈川県の田園都市線でいうと、終点が中央林間だとすると、60歳は長津田あたり。電車あまり詳しくないんで、例えがマニアック?
60歳で働くの辞めて、65歳で年金もらうとちょー少ない。
嘱託で70歳まで働いても、なーんかお荷物扱いぽい。かと言って、新しい事を始める勇気もない。転職なんか無理。
仕事の終点って難しい。ただただ、脱線しないで終点に到着するまで、慎重に進むしかない。
あ〜歳はとりたくない。
上手くいかなくたっていい
パリのルーブル美術館に来ている。昔、王宮だったこの美術館は信じられない程広い。
ルーブルのシンボルとなったピラミッドも趣がある。
最も有名な モナ・リザ
民衆を導く自由の女神
アルプス越えのボナパルト
レースを編む女
グランド・オダリスク
・
・
・
長い通路の両側に無数の作品。
その時代を反映しているもの、愛する1人を描いたもの、生と死。
画家の思想、権力、苦悩。
僕に描けるだろうか。
ここに並んでいる作品は確かに画力があり、人を感動させる。
しかし、最も重要な事は画力ではなく、その画家の想いと願いだ。
圧倒されるばかりである。
しかし、僕は決意をする。
上手くいかなくったていい。
誰も僕の作品に興味示さなくてもいい。
僕は描きたい。
僕が感じるこの想いを、、、。
白いキャンバスに僕の全てを託す。
蝶よ花よ
私は子供の頃、蝶よ花よと育てられた。 欲しい物は全て与えられ、別に欲しくない物でもたくさんの物を買い与えられた。
父親は不動産の会社経営をしており、何がそんなに儲かるのかはわからなかったけれど、使いきれないほどのお金があった。
当然、私は世間知らずで我儘。一度着た服は着ないし、電車も乗った事がない。食べる物は普通だと思っていた物が世間では驚く程の贅沢で、家にジムやプール、シアタールームがあるのは一般的ではないようだ。
そんな私が今、猛烈にハマっているなが、ネットで見た福岡県のご当地ヒーロー〝フクジャーズ”
どうしたら彼に会えるんだろう。
電車は怖くて乗れないし、車で福岡までなんて吐きそうだし、、、。ヘリ?引かれるか?
(会いたい!どーしても会いたい!)
思い切って福岡県の事務所にメールしてみた。
私は◯◯不動産会社の◯◯の娘です。フクジャーズ様にお会いしたく、こちらに来て頂けませんか?
全ての費用はこちらでご用意し、お礼として◯◯◯万円お支払いします。如何でしょうか
数日後
是非、お会いしたく思います
と返事が来る。
やっぱり、世の中お金だ!
ちょろい!ちょろい!
最初から決まってた
僕は普通のサラリーマン。給料も良くも悪くもない。
今日は休日でスマホをいじり、ふと宝くじサイトを見てみる。
宝くじなんて当たるわけがないし、興味もなかった。
前後賞合わせて7億円かぁ。こんなの誰が当たるんだろ。
周りで当たった奴なんて見たこともない。
更に検索すると、宝くじに当たる人の特徴と書いてある。
・男性
・A型
・射手座
・イニシャル KT
・会社員
まさに自分にピッタリ当てはまる。
ここまで見たら買うしかないだろうと思い、ネットで連番10枚買う。まー当たるわけがないけど。
それからしばらく宝くじの事は忘れていた。
メールに宝くじ当選結果が届く。
震えた、固まった。声が出なかった。叫ぶ事も笑う事もできない。
立っている事もできない。呆然とした。
そう、7億円当選したのだ!
僕はあの当選者の特徴に当てはまっていただけだ。
いや!僕の当選は最初から決まっていたのだ。
誰にも言えないけれど、宝くじを買うべき人は必ずいるぞ!
そんなことより、僕はこれからどうすればいいのか?
決まっている!銀行だ〜!