明日世界がなくなるとしたら、
明日世界が無くなりますようにって願う労力が省けるわ。
大地に寝転び雲が流れる……浮かんできたのは、
余計な場面設定やら創作環境指定しないで淡々とお題を出してくれるアプリのお話。
「たーてーぷ?」
「……うぅ、」
「たーてーぷ?」
「おーい、姪っ子が心配してんだから反応しろ〜」
「だからじゃん!2歳児に心配されてるのが情けなくて泣いてんのっ」
「たいのたいのけー」
「ん?」
「たいの、たいの、けー!」
「痛いの痛いの飛んでけだって」
「ぅぁあ……幼児のやさしさが五臓六腑に染み渡るぅ」
「ほら心配してくれてありがとうは〜?」
「ありがと〜。もう大丈夫だよ〜」
「あーい!」
「はーい。………姉ちゃんさぁ、姪っ子にオバチャンに優しくしたら溶けちゃうからやめなって言ってもらえたりとか」
「は?」
「ナンデモナイデース」
#優しくしないで
「そう見えるの?」
「ん?」
ん?とは反応しつつ、姪っ子はクレヨンを画用紙にグリグリ押し付け続ける。
描いているのは、恐らく太陽。
黄色、ピンク、赤、緑……その他色々の花たちに、本人とお姉ちゃん、義兄さん、そんで多分このメガネが私。
その上で燦然と輝く、紫色の太陽。
「紫、好き?」
「んーん!」
力強い否定。
「そしたら、なんで紫なん?」
「まだつかってないから!」
「……ああ」
赤も黄色もオレンジも、もう花で塗っちゃったもんね。
「これでぜんぶ!」
「クレヨンコンプリートかぁ。おめでとう」
「あいあと!」
姪っ子は常に全力で生きているのだ。とても偉い。世界一偉い。
#カラフル
「だいじょーぶ?」
もう酔ってたんだろう。場違いな僕を心配して覗き込むその顔はほんのり色づいて。
「……ごめん、大丈夫だよ。こういう場、慣れてなくて」
「飲んだ?」
「いや。飲む気になれない」
「あのね、こういうとこでは無理にでも飲まなきゃ。飲んで酔うの。みーんな酔ってる中でひとりだけ酔わない側でいるから辛いんだよ」
全然分からないような良く分かるような理屈を口にしながら、君はバーテンに「パラダイス」と注文する。
そうして差し出された、オレンジ色の楽園。
酔ってこの孤独が緩和されるとは到底思えないけれど、少なくとも君と同じ脳の状態にはなれるならと、一気に飲み干す。
そうして噎せる様に泣き笑いながら背をさすってくれた君のことを、とても強い人だと、そう思った。
きっとこの人が持っている強さは、南国の暖かさと陽の光と海風を感じるこのカクテルそのものなんだと。
君がくれた言葉の意味を、ちゃんと分かってなくて、ごめん。
君だって、同じだからあの場所で酔っていたのに。
ごめん。
僕に朝は似合わなかった。
夢から覚めたんじゃない。最初からずっと、歪な夢を見ていたのは僕だけだった。
「じゃあね。……風邪、引かないで」
未練を、中途半端な優しさで残して。
あの日手渡された楽園を、君に返して。
朝が来たら、君だけが目覚める。
#楽園