「だいじょーぶ?」
もう酔ってたんだろう。場違いな僕を心配して覗き込むその顔はほんのり色づいて。
「……ごめん、大丈夫だよ。こういう場、慣れてなくて」
「飲んだ?」
「いや。飲む気になれない」
「あのね、こういうとこでは無理にでも飲まなきゃ。飲んで酔うの。みーんな酔ってる中でひとりだけ酔わない側でいるから辛いんだよ」
全然分からないような良く分かるような理屈を口にしながら、君はバーテンに「パラダイス」と注文する。
そうして差し出された、オレンジ色の楽園。
酔ってこの孤独が緩和されるとは到底思えないけれど、少なくとも君と同じ脳の状態にはなれるならと、一気に飲み干す。
そうして噎せる様に泣き笑いながら背をさすってくれた君のことを、とても強い人だと、そう思った。
きっとこの人が持っている強さは、南国の暖かさと陽の光と海風を感じるこのカクテルそのものなんだと。
君がくれた言葉の意味を、ちゃんと分かってなくて、ごめん。
君だって、同じだからあの場所で酔っていたのに。
ごめん。
僕に朝は似合わなかった。
夢から覚めたんじゃない。最初からずっと、歪な夢を見ていたのは僕だけだった。
「じゃあね。……風邪、引かないで」
未練を、中途半端な優しさで残して。
あの日手渡された楽園を、君に返して。
朝が来たら、君だけが目覚める。
#楽園
4/30/2023, 10:02:44 PM