「おう、死んだか」
痛い。
喉が痛い。
頬が痛い。
腹が痛い。
脚が痛い。
腕が痛い。
「死んだかー?」
触んなボケ。
毎度確認するくらいなら殺せや。
「…………しねくそ」
「あんだよ、生きてんのか」
触んな触んな触んな気持ち悪い。
お前が触ったとこぜんぶ汚れるんじゃ。
「生きてりゃいいや。捕まりたくねえし」
触んな。
「死んだ方が楽だよなあ、オレもお前も」
バカくせ。
#バカみたい
ひとりぼっち同士が寄り添えば、寂しくないと思った。
ひとりぼっち同士が寄り添えば、怖くないと思った。
ひとりぼっち同士が寄り添えば、痛くないと思った。
ぜんぶ、勘違い。
ひとりぼっちじゃなくなったから、寂しくて。
ひとりぼっちじゃなくなったから、怖くて。
ひとりぼっちじゃなくなったから、ずっと痛い、ずっと苦しい。
ぜんぶ、嘘だ。
僕はもう、寂しくない。
僕はもう、怖くない。
僕はもう、痛いけど、苦しいけど、辛くない。
願わくば、君も同じ矛盾を抱えて、そこで息を止めていてほしい。
「二人ぼっち」
「今、なんて言ったの」
「…………別れよう」
出会いはごく単純なものだった。
燻った塊同士の、乱癡気騒ぎ。
青い顔をして隅っこで縮こまった仔犬を、可愛いと思った。
酔わないから辛いんだよと差し出した、甘口の、楽園を冠するカクテル。一気に飲み干して、噎せていた。
今同じ場所で。
もうあなたの顔は青くない。
ああ、そうか。
あなたはもう、目が覚めてしまったのね。
「じゃあね。……風邪、引かないで」
中途半端で、その場限りのやさしさを求めていたのはあなただけじゃなかった。
伝えたことは、無かったけど。
あの日差し出した楽園が、今はこの手の中。
朝が来るまでは、どうかまだ。
「夢が醒める前に」
嗚呼、君、これが恋といふものだ!
これまでのぼくは死に体だったに違いない!
今ぼくは生まれ落ちた!
君、君という雷鳴が堕ちた先がこんなにも矮小な人間であったことを心から憂いているけれど、嗚呼、君、それ以上の悦びだ!
案ずることはない、ぼくがすべてうまくやろう。
泣くことはない、ぼくがぜんぶかくしてあげる。
だから君、ずうっと傍にいておくれ。
#胸が高鳴る
Dへ、元気してるか。俺は今、ポストに食われている。
何を言っているか分かるか。落ち着いてもう一度聞け。
ポストに、食われている。
具体的に描写すると、頭から臍のあたりまでをパクッとやられてる。
今お前の実家近くのポストに来たら、全てを諦めた俺の臍から下が見られるぞ。
なに?何故ポストに食われたかって?ははっ、相変わらずDは知りたがり屋だな。
覗いたんだよ。ただ。
手紙を出そうと思って、ふと気になったんだ。そんで、投函口を覗いたんだ。
そこをパクッ。
薄暗いが、ポストの腹の中に手紙の1枚も見当たらないから、たぶん回収された後で腹が減ってたんだろうな。
ポストに食われた俺とホストに食われたお前、似た者同士だな、ははっ。
……ごめん言いすぎた。謝るから怒らんといて。
とりあえず多分2時間後くらいに回収員さんが来るだろうから、そしたら引っ張り出してもらって、そんでお前への手紙を出すから。
は〜〜〜、ポストの腹の中ってインクくせぇぞ、D。
#不条理