嗚呼、君、これが恋といふものだ!
これまでのぼくは死に体だったに違いない!
今ぼくは生まれ落ちた!
君、君という雷鳴が堕ちた先がこんなにも矮小な人間であったことを心から憂いているけれど、嗚呼、君、それ以上の悦びだ!
案ずることはない、ぼくがすべてうまくやろう。
泣くことはない、ぼくがぜんぶかくしてあげる。
だから君、ずうっと傍にいておくれ。
#胸が高鳴る
Dへ、元気してるか。俺は今、ポストに食われている。
何を言っているか分かるか。落ち着いてもう一度聞け。
ポストに、食われている。
具体的に描写すると、頭から臍のあたりまでをパクッとやられてる。
今お前の実家近くのポストに来たら、全てを諦めた俺の臍から下が見られるぞ。
なに?何故ポストに食われたかって?ははっ、相変わらずDは知りたがり屋だな。
覗いたんだよ。ただ。
手紙を出そうと思って、ふと気になったんだ。そんで、投函口を覗いたんだ。
そこをパクッ。
薄暗いが、ポストの腹の中に手紙の1枚も見当たらないから、たぶん回収された後で腹が減ってたんだろうな。
ポストに食われた俺とホストに食われたお前、似た者同士だな、ははっ。
……ごめん言いすぎた。謝るから怒らんといて。
とりあえず多分2時間後くらいに回収員さんが来るだろうから、そしたら引っ張り出してもらって、そんでお前への手紙を出すから。
は〜〜〜、ポストの腹の中ってインクくせぇぞ、D。
#不条理
「最後くらいさぁ、しおらしく泣いてお別れするとかそういうの、無いの?」
「なに、泣いてあげようか」
「嘘泣きが欲しいんじゃねーんだわ。……いいよ、これくらいドライな方がお前らしいし」
思えば出会った時からそうだった。
仲良しだとか、親友だとかになったとは思ってないし、コイツもそうだろう。
なんとなくウマがあって、なんとなくつるむことが多かった。それだけ。
「君こそ、泣いてくれていいんだよ。意外とセンチメンタルだもんね。雰囲気に当てられて内心苦しいんでしょう」
「ハッ、泣かねぇよ」
誰が泣くかよ。
これで終わりです、今日でみなさんとサヨウナラですなんて、分かりやすく思い出をファリングするための儀式なんかで泣いたら、それこそ本当に終わりみたいじゃんか。
「天邪鬼は変わらなかったね。もうちょっと素直になれたら楽になれるから、がんばろうね」
「ガキ扱いすんなよ」
「心配だよ。世渡り上手に見せかけた器用貧乏さんだし、偽善は捨てられないし、プライド高いし……」
「ケンカなら受けるけど?」
最後の最後で悪口大会開催か?
「泣かないでね。泣いたらちゃんと報告してね」
「…………泣かねぇよ」
「心配だよ。心配してること、覚えてて、忘れないでね」
握手も無い。
ハグも無い。
手も振らない。
涙は出ない。
月に叢雲花に風、サヨナラだけがなんとやら