「今日の心模様は"曇り"」
機械的にスマホの画面に書かれている言葉に俺は溜息を1つ。
最近の人工知能は心模様まで予測できるらしい。
昔の純粋無垢な俺だったら目を輝かせていただろう。
だが、これはそんな喜ばしい物ではない。
よりによって今日だとは。
今日は、彼女にプロポーズをする予定だ。
画面に映し出された根拠も定かでは無い言葉に、自然と気持ちが下がっていく。
世の中には知らない方が良いこともあるもんだ。
そして、この生憎の雨にも嫌気が指す。
神とはここまでも無慈悲なのか。
俺は、重い鉛のような足を動かしながら彼女のもとに行く。
愛の女神は俺に微笑んでくれることはあるのか。
目が覚めると私は泣いていた。
悪夢でも見たと思われるが、私の最後に見たのは愛おしい彼だった。
もう会うことのない彼。
夢ぐらい幸せでありたいのに。
病室に1人。
穏やかな風が窓の隙間から通り頬を掠める。
読んでいた小説がパラパラ捲られる。
温かい日差しが眠気を誘う。
こんな穏やかな日が明日も来ればいいのに。
明日、もし晴れてたら
きっと私は朝の日差しを浴びながら、妻と共に談笑しながら朝食をとる。
そして、覚束無い妻の足を支えるように腕を絡め、近くの公園で散歩するだろう。
外に出れる機会が無い妻との貴重な夫婦の時間。
長年寄り添いあってきたこの愛おしい時間は何物にも変え難い。
妻の手を触れる。
もう手遅れか、手の温もりは妻の魂と共に薄れていく。長いこと傍にいたはずなのに、この別れを知るとどれだけ短いかが分かる。もう、朝食で談笑することも、公園で散歩することも、叶わないのだろうか。
冷たくなる妻の手が、夢が覚めるような感覚がして頬に涙がつたう。
嗚呼。
もう少しだけ傍に居れるとするのならば
ただコンクリートに覆われた、椅子以外何も置かれていない空室にただ1人。
つまらない。
そんな小さな独り言を呟くが、
それは無駄に広いこの部屋によってかき消された。
まるで心に空いた穴みたいな孤独感。
きっとひとりぼっちとはこの事を指すのだろうか。