キミのことなら何でも知りたいし、誰よりも知ってるつもりだよ
使ってるシャンプーの銘柄
お気に入りのグミ
爪を切るタイミング
靴を履くのは左からだし
子どもの泣き声じゃなくて泣き始める瞬間の声が苦手
最近はチークの色を褒められて喜んでたね
キミ検定が存在しなんて残念すぎるよ
いつだって正解を差し出すことができるのに
キミがオーダーしたデリバリーも、いつだってこちらを経由しているから、嫌いなオニオンは暫く目にしていないだろう?
不快に思うものは全て排除するから大丈夫
今日はキミに嫌味を言ったあの女のところに行ってくるよ
少し側を離れるけれど、いつも見てるし聴いてるから安心にしてね
それじゃあおやすみ
『些細なことでも』
大体裏返しよな
いっつも
え?裏返しで洗うのが正解?
知らんよメンドイ
表に返すのやめよかな
は?そのまま着るって当てつけですか?
君のだらしなさが私の評価につながることをご存知ないようだね
人間やって一回目だと思って許してやるのは今世までだからな
『裏返し』
深海に暮らす人魚のトゥは、今の世界が海の底だとは夢にも思っていなかった。
上がどこまで続くのかを考えた事がないわけではないが、海という概念のない人魚たちに地上を認識することは難しい。
では何故このような話になったかといえば、偶然手にした禁書を読んだからだった。
嘘か真か、その本にはこの世界から飛び出していった人魚の話が綴られていた。
彼女は激しい恋をして、とある種族の雄を追って挙げ句に人魚であることさえ辞めてしまう。そして最期は泡となって消えてしまうのだ。
この世界が全てのトゥには衝撃的な内容だった。
自分の知らないことがこの上にある。そう思った途端、トゥは急に息苦しさを感じた。
外の外に行ってみたい
上の上に出てみたい
若く、冒険心に溢れる気持ちは日に日に強くなり、とうとうトゥは海面に出た。
ここが上の上。環境の違いと興奮から、トゥは呼吸もままならない。
水面から見上げれば、遠くには大量に光る砂が浮いている。
もちろん夜空を知らないトゥは、それが星空とはわからない。だが、まだ上があることはわかった。
若者の心に灯った小さな星
トゥの冒険は続いてゆく
『夜の海』
傍若無人な王様のもとに召し使えて数ヶ月
もう辞めたいな、見ていられない。
話には聞いていたがこれ程とはね
教育って大事だなと思ったよ。何でも言うこと聞く人間しかいないと、人ってこうなるという見本みたいな。
この人は被害者だ
賢くなられたら困るからと、歪な倫理観を教え込まれて傀儡となった憐れな王様
みんなわかってるから、好きにさせてるんだ。
みんなわかってるから、諦めてるんだ。
王様は今日も何も気づかない。
周りの言うこと真に受けて、民たちの侮蔑の眼差しも、あの笑い声も。
いつか気づいて
自分の愚かさに
いつか気づいて
裸でいることに
『蝶よ花よ』
昨今、一人◯◯というものが流行っているようだ。
一人旅
一人焼肉
一人カラオケ
.....etc
確かに一人ならではの楽しみはあるだろう。
時間や好みを共有することなく、思うままに行動出来る開放感がある。
ただ、
―――ボッチ上等
―――一人で楽しめる自分カッケー
そんな副音声が聞こえるのは自分だけだろうか。
賑わう集団を横目に、自分は群れないぞ、と無駄に肩肘を張っている寂しげな背中を見かける事がある。そんな人に限ってSNSでの発信力は高い。
基本人は一人なのだが、一人だからこそその中で気の合う仲間に出会えたときの喜びや、共感できる嬉しさを得ることが出来るのだ。
態々一人◯◯と強調しなくとも、気づけば一人だ。
頑張らないと一人になれないなんて、贅沢な人生だな、と本当に一人の人は思う。
『だから、一人でいたい』