深海に暮らす人魚のトゥは、今の世界が海の底だとは夢にも思っていなかった。
上がどこまで続くのかを考えた事がないわけではないが、海という概念のない人魚たちに地上を認識することは難しい。
では何故このような話になったかといえば、偶然手にした禁書を読んだからだった。
嘘か真か、その本にはこの世界から飛び出していった人魚の話が綴られていた。
彼女は激しい恋をして、とある種族の雄を追って挙げ句に人魚であることさえ辞めてしまう。そして最期は泡となって消えてしまうのだ。
この世界が全てのトゥには衝撃的な内容だった。
自分の知らないことがこの上にある。そう思った途端、トゥは急に息苦しさを感じた。
外の外に行ってみたい
上の上に出てみたい
若く、冒険心に溢れる気持ちは日に日に強くなり、とうとうトゥは海面に出た。
ここが上の上。環境の違いと興奮から、トゥは呼吸もままならない。
水面から見上げれば、遠くには大量に光る砂が浮いている。
もちろん夜空を知らないトゥは、それが星空とはわからない。だが、まだ上があることはわかった。
若者の心に灯った小さな星
トゥの冒険は続いてゆく
『夜の海』
8/16/2024, 9:16:14 AM