日常の中に散りばめられた゛最悪゛で
最も悪なものを考えてみる
やはり突発的な事故や理不尽な不幸事ではないだろうか
いつものように笑顔で見送った最愛と二度と会えなくなった日
努力を重ねて得た幸福を取り上げられた瞬間
猫の手を借りたいほど多忙な時期や旅行直前での魔女の一撃
今日前髪決まんない超最悪
数ある不幸がある日々の中、人は意図も簡単に最悪と呟く
想像できる最悪が経度なものほど
いかに日常での幸福を享受しているかを伺い知ることができる
『最悪』
実はくじに当たった
誰にも内緒にしてるけど
内緒にしてるから、日常は何も変わっていない
家族も、同僚もみんな、ぼくが大金持ちだってこと知らない
突然の知らせだったからすごく驚いた
今後のことはゆっくり考えよう
ちょっと不安だけど、これからのことを考えるだけで幸せ
でもぼく、いつくじ買ったんだろう
全くおぼえてないけどな
でもメールで「おめでとうございます!」って来たんだから、きっと知らないうちに買ってたんだ
今年はついてる
こんな秘密今まで持ったことないからドキドキしちゃうな
換金するための手数料
早く振り込みに行かなくちゃ!
『誰にも言えない秘密』
落ち着くなぁ
落ち着くなぁ
隅っこ端っこ落ち着くなぁ
小さい寝床落ち着くなぁ
クッションいっぱい落ち着くなぁ
低い天井落ち着くなぁ
落ち着くなぁ
落ち着くなぁ
『狭い部屋』
今回も駄目だった
せっかく久しぶりに活きのいい人に出会えたのに
貴方も喜んでいたじゃない
美味しいご馳走、一流の踊り
働かなくていいのよ
何が不満だったの
私たちだっていい感じだったじゃない
結局陸がいいのね
悔しい
悔しいからお土産に渡した玉手箱
貴方はどうするかしら
あぁ、また亀を陸にやって
めぼしい男を勧誘してもらわなきゃ
『失恋』
毎年行われる近所の祭。夕方に散歩がてら何気なしに冷やかして見ていたら、他の出店より端っこでポツンとその店はあった。
歩行者も多く、それなりに賑わいのある通りのはずだが、その店の周りだけ人は閑散としているようにみえた。
「いらっしゃい、よかったら見ていってね」
老人のような、少女のような、よく分からない女がそう言った。
だが置いてある品は店主の女以上によくわからないものが多かった。
祭の出店に置いてある品など、もともとガラクタばかりなのでおかしくもないが。
「クジもあるよ。一回400円」
なるほど祭らしい。
では一回。
店主が差し出した箱に手を入れ、中にある紙を一枚引き出す。
「はい、4等ね」
紙を確認した店主が次に景品を渡す。
途端に手のひらのヌルッとした感触に驚く。
よくよく見ればナメクジだった。いや、ナメクジの玩具か。手触りといいサイズといい非常に精巧に出来ている。
「これからの季節にいいものだね、毎度あり」
聞けばこのナメクジ、どうやら傘の柄に付ければ、傘を盗まれる心配がなくなるとか。
確かにこんなのが付いていたら皆ぎょっとして、よくあるビニール傘でも間違えることはなさそうだ。
久々にくだらない買い物をしたと、小学生が喜びそうな品をポッケに押し込み再びぶらぶら歩きだす。
翌朝、洗濯を干す母の絶叫を聞くまで、ソイツの存在を忘れ祭を堪能したのだった。
『梅雨』