昨今のブラック企業問題は、天界の鬼たちにも該当されている。
どうやら地獄へ落とされる魂が一昔前から急激に増加したようだ。
明らかに人数オーバーで、監視の管理が行き届かない
終わりがないので罪人は増えるばかりで狭い
普通に疲れた、休みがほしい
鬼たちの陳情は日々増える一方である。
上層部もこの問題を重視しており、近々人員を増やすことを約束しているが、鬼研修を無事合格できる者は非常に少ないので、幸先は暗そうである。
そもそも天国、地獄ともに職員が少ないのは、適正な魂が流れてこないのが原因である。
現代においては多様性が叫ばれ、はっきりと白黒をつける事は良しとされない風潮だ。
善と悪のあり方についても疑問視されている中で、強い志を持った魂は非常に稀である。
では地獄へ落とされなかった者が行く天国はどのような状況かというと、それはもう閑散としている。
元々輪廻する魂の休憩場所として扱われる存在であるため、設備と人員は最小限だ。
地獄界隈では天国と地獄の雇用状況のあり方についても不満の声が上がっており、早急な改善を求められている。
『天国と地獄』
あぶなかった
もう少し遅かったら結婚させられてたよ
絶対お断りだって言ったのにしつこいったら
時間稼ぎに無理難題なお宝要求したけど
迎えが来るまでヒヤヒヤしたなぁ
でもお爺さんとお婆さんには悪いことしちゃった
色々親身になってくれたし
お婆さんのたけのこご飯美味しかった
また食べたいな
もう会えないけど
私がいなくなっても元気に暮らしてほしい
今度生まれ変われるなら
次はあの人達の本当の娘になれますように
『月に願いを』
今日も雨だ
雨が貴重なのはわかるけど、降りすぎるのは望ましくない
日本には梅雨があるのだが、何気に春と秋も長く降る季節の変わり目には雨だ
ということは結局年中雨だ
朝も暗くて起きにくいので自律神経が乱れ
頑張って起きても湿気で髪の毛は爆発なのだ
傘は何百年経っても大した進化はされないし
洗濯物は外に干せないからなんだか生乾きで臭い
「ということで、ぼくがこんななのは全部雨のせいだ」
「いいから早く準備しろ」
『降り止まない雨』
なんとなく始めたことで、
ずっと続けてしまうと、
やめるにやめられなくなるというか
そういう事ってあるよね
コレとかね
『あの頃の私へ』
脱獄する予定だ
某映画みたいに、独房の壁を掘り、パイプをつたって外に出てやるんだ。
この部屋をあたえられたのは最期の幸運なんだ。
時間は腐る程あるからな
ガリガリ
ガリガリ
やはりフィクションとは違って、現実の壁は厚い。
それに角部屋とはいえ、必ずパイプへ続くのかもわかっていないが、この壁の脆さは無視できない。
ガリガリ
ガリガリ
焦るな 時間は腐る程ある
.......
.......
「おい、643番は相変わらずか?」
「ああ、飽きもせず壁こすってる」
「あの独房ってわざと脱獄心擽られるような仕様になってんだよな」
「そうそう、脆い壁、外れそうで外れない窓格子、絶妙なサイズ感の通気口」
「最近は意味深な番号が羅列されたメモ用紙を見つけたらしいぞ」
「そりゃ忙しいな」
「まさか今の状況すら刑期の内容に含まれるとか思ってもいないんだろうな」
「散々時間と頭使ってやっとゴールしたと思ったら速攻スタートに逆戻りとか」
「ま、しょうがないよな」
『逃げられない』