夜が明けた。
深くため息をつくと、白い息がふわりと溢れる。
「夜が明けるな……」静かに呟いた。
朝日が昇り始め、空が白んでいく。窓際に手をかけ、まだ眠る街を見下ろす。
静かな空間に、自分の心臓の音だけがいやに大きく響いていた。
ふと、自分の両手を見る。
べったりと血が付いている。弟の最後の温もり、肉を裂く感触。そのすべてがまだ手のひらにこびりついていた。
一歩外へ出れば、空はどこまでも澄み切っているのに。
私だけが、醜く、汚らわしい。
声も出せずに蹲り、涙だけが止めどなく溢れる。
夜明けに、一人ぼっち、罪を犯した私に。
もう二度と、朝は訪れない。
創作子の話
手を繋いで
「ねぇ、手をつないでよ」
いつものようにあなたの大きな手に自分の手を乗せるが、いつものようにあなたは握り返してくれない。
そうね、いつもと同じようだけれど違うのは貴方がひどく冷たくなってしまった事ね。
綺麗に化粧を施された貴方に私の涙がポロリと落ちる。
いくらあなたをお願いしても届かないことは分かりきっている、けれどけれども
「ねぇお願い、手を繋いでください」
あなたは誰
僕の前で優しい笑顔で微笑み抱き締めようと両の手を広げてくる。
やっと!お兄様が僕をきちんと見てくれた、お兄様に飛び込もうとするも頭の奥で警鐘が鳴る。
ねぇあなたのお兄様はあなたのことをこんな瞳で見てくれるかな?
喜びで溢れ惚けていた頭は冷水を被ったようにすっと覚め、抱きしめようとした両の手を、目の前にいる紛い物の首を躊躇いなく締め吐き捨てる。
「あなたは誰だ」
創作子
手紙の行方
毎日あなたに手紙を書く
今日はあなたの好物の魚が安く手に入ったこと、あなたが楽しみにしていた花が咲いたこと、あなたの好きな甘味処が潰れてしまったこと。
毎日他愛のない事を書いて、いつもあなたを思い浮かべて書いて。
あなたから返事が来ないことは私が1番よく分かっている。
でも、どうかこの手紙の行方があなたの元へ届くように、そう願いながら仏間に向かい凛とした顔でこちらを向いているあなたの写真の傍にそっと添える。
あなたのもとへ
駅であなたを見つけた、やっと会えた私寂しかったのよ。久しぶりに会えたから沢山伝えることがあるのよ。なにから話そうかしら、あら、あなた髪の毛が少しボサボサだわ。
愛しいあなたの変化に思わず笑みがこぼれる。
多くの人をかきわけ、あなたのもとへ駆け足で向かって行く可愛い私をどうか強く抱き締めて頂戴ね。