街
君と歩いた街は、少しずつあの頃の面影を変えていく。
大人になった君は、この街を離れてしまったけれど。
僕は今も、君との思い出の欠片を探してこの街を歩いている。
君は違う街で、新しい思い出を刻んでいるのかな。
その街が、君にとって幸福に満ちた思い出で作られますように。
やりたいこと
いつもは降りない駅で降りてみる
誰も私を知らない土地に行ってみる
ゆっくりとコーヒーを楽しんでみる
いつもは見ないジャンルの映画を見る
行ったことのないお店に行ってみる
大げさじゃなくていい
ちょっとした非日常はいつだってそこにあるから
朝日の温もり
ゆっくり寝るのも悪くないけど
予定のない真っ白な日曜日の朝に
君と手を繋いで散歩したい
静かな町の景色と、朝の匂いと温もりに囲まれて
君とお喋りがしたい
どんな話をしよう
とりあえず、明日一緒に散歩に行きませんか?
岐路
もうすぐ君が乗る電車が来てしまう。
駅のホームで立ち尽くす俺は、未来を夢見て真っ直ぐ立つ君の背中を見つめていた。
夢を叶えるために旅立つ君を応援したい。
その気持ちは嘘じゃない。
夢に向かって進む君はとても眩しくて、力強かった。
君が振り返ると、その手を俺に伸ばした。
「一緒に行こうよ」
風が吹く。
君と共に歩む未来を想像する。
きっと、悪くないものになるだろう。
君の手を掴もうと伸ばした手は、けれどゆっくり落ちていく。
視線を落とした俺には、君の落胆する顔を見る勇気がなかった。
何も言えず電車が来て、君は乗り込んでいく。
「優しいあなたが好きだった。でも、私を選んでくれないあなたの優しさが、とても悲しい」
彼女が落としていった言葉が小さな棘になって心臓に刺さる。
出発の合図が鳴る。
最後だからと君を見送ろうと顔を上げた。
扉が閉まる瞬間、君は俺が好きだと言った笑顔で手を振った。
「幸せになってね」
電車は規則正しく、残酷なほどの正確さを持って彼女を連れて行った。
電車が見えなくなって、俺の背中を押すように風が吹いた。
逆らうように風に向かって帰路につく。
これで良かったんだと飽きるほどの言い訳を唱えながら、彼女がくれた夢に蓋をした。
世界の終わりに君と
砂と石に塗れたこの惑星には、ボク以外誰もいない。
昔はボクに似た、ボクより大きな生き物がいたような気がするけれどみんな砂になって消えちゃった。
もうどの砂の粒が彼らなのか分からないや。
もしかしたらまだ会えてない仲間がいるかも、と期待してこの惑星を旅している。
歩いても歩いても、砂と石ばかり。
あまりに何もないから石を重ねてみたり、どれだけ石が遠くに投げられるか試してみた。
砂で仲間を作ってみようとしたけど、彼らが混ざってたらなんだか申し訳ないから止めておいた。
どれだけ歩いたか分からなくなった頃、ボクは小さなそれを見つけた。
青々とした緑と淡いピンク色の花弁を風で揺らしたそれは、確か花というやつだ。
(初めて見た!)
昔、仲間が教えてくれた。
この惑星は花が育つには水というやつがとても少ないから、育ちにくいらしい。
だからとっても珍しいんだ。
ボクはしばらく花を傍で見守ることにした。
小さなそれは触れるとあっという間に崩れそうで、ボクは花から少し離れて座った。
たくさん歩いたから疲れたし、少し休むくらい良いよね。
「君は家族はいないの?どうしてこんなところでジッとしてるの?」
初めて見る花という奴は無口で、ボクが話しかけてもなーんにも言わないんだ。
「もしかして、君も仲間を待ってるの?」
だったらボクと同じだ。
花はきっとボクと同じで、仲間が迎えに来るのを待ってるんだ。
「一人は寂しいでしょ?君の仲間が来るまでボクも待ってあげるよ」
朝が来て、夜が来て、ボクは花と一緒に毎日を過ごした。
色んな話をしたんだ。
ボクの仲間や思い出の話や、旅の話。
(なんだか眠いなぁ)
その内、ボクは眠ることが多くなった。
花のやつ、全然話してくれないからボクばっかり喋って疲れたんだ。
少しくらい寝ても良いよね。
「ねえ、君の仲間が来たら、教えてね…会ってみたいんだ…そしたら、君も、ボクとお話、してくれるかな…」
君はどんな声でお話してくれるかな。
起きたら、君の仲間とボクの仲間がいてくれたら嬉しいなあ。
花の傍で、小さな砂の山が風に吹かれて宙を舞う。
淡い花弁が一枚、砂と踊るように空へ昇った。