蓮池

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岐路

もうすぐ君が乗る電車が来てしまう。
駅のホームで立ち尽くす俺は、未来を夢見て真っ直ぐ立つ君の背中を見つめていた。
夢を叶えるために旅立つ君を応援したい。
その気持ちは嘘じゃない。
夢に向かって進む君はとても眩しくて、力強かった。
君が振り返ると、その手を俺に伸ばした。
「一緒に行こうよ」
風が吹く。
君と共に歩む未来を想像する。
きっと、悪くないものになるだろう。
君の手を掴もうと伸ばした手は、けれどゆっくり落ちていく。
視線を落とした俺には、君の落胆する顔を見る勇気がなかった。
何も言えず電車が来て、君は乗り込んでいく。
「優しいあなたが好きだった。でも、私を選んでくれないあなたの優しさが、とても悲しい」
彼女が落としていった言葉が小さな棘になって心臓に刺さる。
出発の合図が鳴る。
最後だからと君を見送ろうと顔を上げた。
扉が閉まる瞬間、君は俺が好きだと言った笑顔で手を振った。
「幸せになってね」
電車は規則正しく、残酷なほどの正確さを持って彼女を連れて行った。
電車が見えなくなって、俺の背中を押すように風が吹いた。
逆らうように風に向かって帰路につく。
これで良かったんだと飽きるほどの言い訳を唱えながら、彼女がくれた夢に蓋をした。

6/8/2023, 2:17:40 PM