誰に気づかれることもなく
デジタル数字が時を刻む
暗闇のなか
横たわるのは静寂と
停滞した誰かの時そのもの
世界から誰が消えても
秒針すら消えても
今この瞬間、私が消えても
世界は気にもとめず、気づくこともない
ひとつため息をつく
沈むスプリングだけが存在を証明する
【静寂に包まれた部屋】
手を離した、その呆気なさに愕然とする
一人になった途端、独りにされた途端
夕焼けに追い立てられるように
走る、はしる、
夕日に焼き尽くされた街はまるで戦場のようで
机上でしか生きられない
いつかの時代のどこかの誰か
悲痛な叫びが、脳裏を過ぎる
戦争にロマンスを見いだせるなんて滑稽だ
それでも、命は散り際こそ美しいと
消耗品に成り下がった、尊かったものたち
誰かが生きるために駆けたかもしれない
怒号と悲鳴と泣き声と、痙攣する心臓を叱咤して
向かう道
先をゆくのは先人の影
暗闇に溶ける
やがて辿り着く
その向こう側へ
【別れ際に】
孤独と安堵だけを約束された
世界を映す雫の檻
乱反射する太陽光に彩られた
さびしい、さびしい檻
一歩踏み出せば光の中
けれど世界は恐ろしくて
どんなに追いかけても
追いつくことはない
逃げ場などない
取り残された檻の外
【通り雨】
いつの間にか曖昧になった、夏と秋の境界線
太陽も、風も、海も、雲も、草木も、花も、
見れば変わらずそこにいるのに
ふと、顔色を変えては季節まで変えてみせる
始まりを告げ、終わりを詠う
明確な隔たりなどあっただろうか
明確な隔たりなど必要だろうか
春夏秋冬、それだけでは終われない
もっと儚い、世界の移ろいを
365日、人知れず去った儚い時を
季節を告げる、全てのものたちだけが知る
【秋🍁】
見知らぬ土地の、誰かの生活の影を見る
誰かの帰る場所
誰かの遊ぶ場所
誰かの学ぶ場所
一駅ゆく間の窓の向こう
もう帰れない、あの日を見た
チェーン店の看板だけが
不安と孤独を慰める
【窓から見える景色】