形ないものに飢えては
形あるものを求めている
空白は埋まりやしないのに
無色透明な箱のなか
在るようで、無いような
形ないものほど大切だというけれど
満たされていても、飢えていても
目には見えないのなら
触れることなどできないのなら
せめて、形あるものに縋っていたいと思うのは
そんなにいけないことだろうか
応急手当くらい、許されたっていいだろうに
【形の無いもの】
今はすっかり見かけなくなってしまった
ぐるぐる、回るジャングルジム
調子に乗って外側にしがみついては
遠慮なく回す友達に情けない悲鳴をあげながら
振り落とされまいと必死にしがみついていた
わけもわからぬまま世界が回る、まわる、
あ、と思って手が離れたあの瞬間の恐怖と絶望
なぜか英雄のように砂埃を立てて着地した時の、
安心感ととてつもない興奮
あぁあの頃は楽しかった
あぁあの頃は自由だった
なんて。
あんなに大人になりたかったのに
あんなに大人は自由に見えたのに
思い出すのはあの頃の
大人も、世間も、友達も
みんなみんな自由に見えた
小さなちいさな子どもの世界
大人は入れないちいさな世界
回るジャングルジムに振り落とされた
子どもの世界はもう回ることはない。
【ジャングルジム】
私は聞こえている。
音を音ではなく
音を耳鳴りではなく
音をメロディーではなく
音を囀りではなく
音を声として
音を言葉として
耳の痛い言葉だって、私はきちんと聞こえている。痛いから、聞こえているはずなのだ。
私は聞こえている。
助言、妄言、苦言、甘言
虚言、提言、戯言、名言
どんな言葉も、私にはきっと聞こえている。
聞き取れていると思い込んでいる。
聞こえた音こそが正しいと信じている。
嘘か誠か。そんなもの、目には見えなくとも。
誰かの声も、自分の声も。
私には聞こえている。
きっとそうだと、言い聞かせる声だけが
いつも鮮明に聞こえている。
【声が聞こえる】
図々しくも夏は秋の上に寝そべって、
ふと降り積もる雪を見て、いつの間にか過ぎ去った秋の終わりを知るのだろう。
読書の秋だとか、食欲の秋だとか、芸術の秋だとか、秋は短いけれど、確かにあったはずなのに。
少しずつ、季節が殺されていく。
知らぬ間に、季節が死んでゆく。
燃え盛る夏に、季節も、人も、この恋すらも。
青葉が枯葉になる過程なんかすっ飛ばして、
雪に埋もれて凍るのだ。
いつの間にか息絶えたことに、
誰にも、自分にさえも、気づかれぬまま。
確かにここにあった恋。
春になったら、また何かが芽吹くのだろうか。
【秋恋】
自分の話に友達が共感してくれた時。
大袈裟なまでの相槌と、笑い声。
話が盛り上がって、注目が集まる。
あぁわかってもらえた、あぁ笑ってもらえた。
それだけで涙が込み上げる私は、
恵まれているのか、むしろ飢えているのか。
この瞬間を切り取って
それが永遠になればいいのに
なんて思っているうちに
いつの間にか話題は次に移っていた。
【時間よ止まれ】