僕は善く生きたと思う。
最期は
運転中に横断歩道の歩行者を轢いてしまった
末に気が動転して電柱に衝突
という実に呆気ないものだったが、善く生きたと思う。
目が覚めたら、どこまでも真っ白な空間にいた。
これが噂の天国だとしたら、随分味気ないものだ。
左手には折り畳まれた小さな紙が握られていた。
開いてみると、
「来世 : タニシ」
と書いてあった。
僕は目を疑った。そんなはずはないからだ。
子供の頃から素直に生きてきた。
善い人であろうと、周りにも親切にしてきた。
おまけに文武両道で、与えられたものは
全力で頑張ってきたのに。
ああ神様、こんな仕打ちはあんまりだよ。
きっと何かの間違いだ。そう思い
どこまでも白が続く空間をまっすぐ走っていると、
「ザ・神様」な格好をした若い男が舞い降りてきて、
僕にこう言った。
「僕のこと覚えてるよね?」
学生時代の卒業アルバム、交換した名刺、
法事でしか会わなくなった親戚、、、
思いつく限りの記憶を引き出しても全く思い出せない。
文字通り頭を抱える僕を見て、
その神様は続けて言った。
「轢き逃げ」
どうやら彼は、僕とは比べ物にならないくらいの、
相当な徳を積んでいたらしい。
誰かのためになるならば、
と起こした行動はきっと自分に返ってくる。
だから今日も、少しでも善く生きようと思う。
鳥かごを開けてもここでピイピイと悲劇ぶるのはやめにしないか
高校卒業から10年、当時は一度も遊んだことが
なかったクラスメイトと、ふとしたきっかけで
定期的に遊ぶ仲になった。
そんな細くて透明なテグスのような強い絆もあれば、
高校3年間ずっと一緒にいてお泊まり会もしたのに、
10年経った今では誰とも連絡が取れなくなった
仲良しグループのような、太くて脆い友情もある。
もう会わないだろうけど、確かに親友だった。
人は同じ形でいられない。
どこかで元気でいてくれればそれでいいと思う。
半永久的な満開を約束された
プリザーブドフラワーよりも、
切られてもなお咲き続けて
枯れるまでを全うする生花のほうが好きだ。