さくさくと小さな靴で踏み鳴らし次の音色を探す君の背
やさしく降る。
雑多なものを覆い隠して、
まっさらにする。
その上を、
汚れを知らない小さな靴が、
軽やかな足どりで駆けていく。
夜の雑踏、ビル窓の反射。
車の音と、人の声。
このまま存在を薄く、薄くして、
夜景の中へ溶けて消えたい。
「久しぶり。元気してた?」
自宅の玄関前に突然現れた、よく見知った顔。
「元気してた?って…こっちが聞きたいよ。今までどこに行ってたの?」
高校の同級生である彼は、突然消息を絶ったまま、もう5年ほど経っていた。
「ちょっと…まあ、色々あったんだよ。」
彼は苦笑いしながら、言葉を濁す。
ベージュのダッフルコートに、落ち着いた赤色のマフラー。少し癖のついた黒髪。
5年という月日を感じさせないほどに、彼の姿は"そのまま"だった。
「色々、って…まあ、とりあえず入りなよ。聞きたいことは山ほどあるし。」
そう言って私は、彼を部屋に招き入れようとする。
「いや、ごめん。それはできない。これから行かなきゃいけないところがあるんだ。」
そんな、せっかく久しぶりに会えたのに。と私が言う前に、彼は続ける。
「君に渡したいものがあるんだ。」
そう言って彼は、右手に持っていた白い紙袋を差し出した。
「ありがとう。これは何?」
「…後で開けてみて。」
一体なんだろうと紙袋を眺めていると、彼が言う。
「元気そうでよかったよ。それじゃあね。」
「え、待っ──」
顔を上げた時、彼はもうそこにはいなかった。
紙袋に入っていたのは、彼と私が写った数枚の写真と、メッセージカード。
そのカードには、彼の字で、『今まで楽しかったよ。ありがとう。』とだけ書かれていた。
友人づてに、彼が亡くなっていたと聞いたのは、その3日後のことだった。
あの子は飛んだ。
柵を飛び越え、空を夢見て。
翼があると、疑いもせず。
鳥のように、飛べると信じて。