香りは欲望を匂わせる。強ければ強いほどに。存在を主張したいのか、反対にかき消したいのか。どちらの方向にせよ香水には欲望のエネルギーを感じる。
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バスの中に西洋人と大学生。体臭を上塗りして消すという本来の使い方をする人と色気を足したいという使い方をする人。それに自前の鼻が過敏に反応しむせそうになる。
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イケてるやつ。そうであるとシグナリングしたくて手頃で万人受けする香水を一度だけ買ったことがある。出かける前に数プッシュ。この香りが相手にしれっと悟られればいいなと出かける前のおまじない。結局その日は匂いに言及されずそれ以降減らないボトルが自宅に眠る。
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汚い公共トイレに強烈な甘さの芳香剤があったことを憶えている。視覚と噛み合わない甘くてクドいにおい。そのわかりやすい違和感が余計に気持ち悪さを助長していた。
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汚れた壁紙に100均のリペアシート。似たような白地で合わせて貼ったが最初よりも目立ってしまう。下手なコンシーラーはしないほうがいいのかもしれない。普段メイクはしないがそう思った。
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(醜いとしても)ありのままでいるという潔さと、綺麗になるよう(醜いほどに)取り繕うことではどちらが清いのだろう。わからない。
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眠っていたボトルの中身を枕元に数回吹きかける。最初の目的と違う用途の香りが部屋を優しく包んでくれる。そんなのどっちだっていいよね。醜美なんて忘れて眠る。
「鏡」と呼ぶことで反応するように設定した
ChatGPT搭載型のアレクサに質問する王妃
#現代版白雪姫
夜の海は人を動かす。
狭いワンルームの部屋で寝起きの喉がガラガラになる乾燥問題に直面した自分は、ネットに載っていた情報をあてに枕元へ水がたっぷり入ったバケツを置いた。
超愚直な加湿器。至極単純だがこれなら朝になっても喉が乾かないだろう。安心して明かりを消して眠りについた。
その後、ふと目が覚めてしまった。いったい今は何時だろう。時刻を確認する為に近くに置いたはずのスマホを暗闇の中手探りした。どこだどこだ。
あった。スマホを見つけてすぐに時刻を確認した。しかしその直前に腕がぶつかって何かが倒れた音がしたことも確認した。夜中3時に水の音。急いで明かりを点ける。
そして事態の最悪さを把握したあと、ありったけのタオル類をかき集め寝起きの身体を必死で動かした。
夜の海は人を動かす。
雪国出身の自分は高校時代の冬の朝、自転車に乗って汗をダラダラ垂らしながら遅刻してはいけないと必死に雪道の上でペダルを漕ぎ続けていた。
無論雪道でしてはいけない危険なこと。しかし周りに誰もいないのならばと周囲を確認してから必死に漕いでいた。
ズササと先人が通って硬くなった雪を切り裂きながら無理やり車輪で再開拓する。朝食に出た目玉焼きのぱさつき気にせずもっと素早く食べていれば。そう後悔しながら雪をどんどん勢いのまま蹴散らしていく。
しかし大通りに差し掛かる手前の道で盛大に滑り思っきり脇に積み上がった雪へ全身が飛んだ。嘘みたいな一瞬の出来事。すぐさまヘルメットの隙間に入る雪を振り払い立ち上がってからいったん状況を振り返りふと思った。
すごい恥ずかしい出来事だったけどあんな見事な吹っ飛びがあったことを誰にも知られないのは悲しい。身体の跡がわからないほど崩れ落ちた雪山をみてそんなことを遅刻を忘れてのんきに思ってしまった。
なんか悔しい。何かがあったんだと存在を残したい。謎の悔しさを解消するために恐ろしく馬鹿らしいが雪山へ身体と自転車の跡が残るようにわざと身体をもう一度倒した。
よし、これで一件落着。これで存在を残して心残りなく再び登校できる。そう思いペダルに足をかけると、こちらをものすごい目で見つめている親子と目が合った。
目玉焼きをもっと素早く食べていれば。
産まれてからわずか3年で大人たちに交じり
役者というある種の嘘を仕事としてきた彼
特殊な環境で育った彼の精神は大丈夫なのだろうか?
そんな風に勝手ながら思っていたが杞憂だったようだ
今では背も伸びて夢である獣医師を目指しているらしい
少し前までは皆「くん」呼びだったがこれからは
尊敬を込めて彼には「さん」を付けるべきだろう
おおどうか立派な彼の未来に安寧を
そしてブックオフの未来にも安泰を
ー心の健康ー