夜は優しい
毎日世界を一色に近づける
暗がりの一元論
夜は教えてくれる
世界に差異を生んでるのは光だと
その光の中で見た何かに怖くなった今日
夜ではそんな何かも私と同じ色になっていく
瞼の裏と世界の差異がなくなっていく
私の中の世界と世界が重なっていく
わずかに残る感覚だけの世界に私がいる
世界にいるのは私だけなのではないか
そんなふうに独我論が私を包み込んでいく
暗がりの中でみた独りの世界が怖くなってきた
自分以外の何かの存在を信じたくなった
私以外の何か…何か…誰か…
朝は優しい
毎日夜に終わりを告げる
多元な世界へ私を連れ出す
紅茶に浸した貝殻型のマドレーヌを口にした瞬間の香りでとある小説を思い出した フランスの長い長い小説
たしかこうやって匂いと記憶が結び付くことの名称の由来にもなってる小説家の作品 かつて読んだことがある小説
こうして今まで忘れていた昔の記憶を徐々に思い出して過去を辿っていく内容だったはず あの小説の名前は…
こんなふうにはっきりとは思い出せないものは単語を並べて調べればだいたいわかる 「匂い 記憶」で解決する
そんな今の時代でもどこにも載せることができない私個人の体験の記憶とそれにまつわる匂いに思いを巡らせる
幼少期のおぼろげな記憶 あの頃のあの匂い
あの場所の雰囲気という感覚の質 クオリア
記憶という量的還元不可能な質が私に輪郭を与えている
今感じているこの香りと記憶がそれを思い出させる
思い出せないだけの記憶が私にはあといくつあるのだろう
それを思い出させる何かはどこにあるのだろう
軽食を済ませ外へ出た私の五感は研ぎ澄まされていた
失われた何かを求めて
愛言葉
君は平気で造語をする
思わず間にのを入れたくなる
曲名にもなっていると告げられる
だからってそれがある言葉になるのか
ただの言葉遊びにもやもやする
それぐらい言葉にこだわりがある
たぶん自分には言葉愛があるんだ
だから造語にも眉をひそめてしまう
言葉愛が愛言葉を拒絶する
しかし言葉愛も造語ではないのか?
2つの言葉の違いを上手く説明できない
曖昧なルールブックで言葉を捉えている
だからある言葉とない言葉の違いがわからない
なんとなく なんとなくの違和感が言葉を縛る
縛りの強さが愛の深さを示すのだろうか
そうならば言葉の愛は深いほど他人を遠ざける
意思疎通の為の言葉がどんどん愛によって塞がれていく
塞がれた言葉観では話すことが相手を探ることになる
君も自分と同じ縛りを持つものか 愛を持つものかと
それはまるで相手を試す合言葉のように
友達という言葉は浮遊するシニフィアンに近い
その曖昧さ故にあらゆるその他の関係性に紐づく
血縁関係や社会の組織内での関係など社会構造的にありありとわかる関係性ではないその他諸々の関係性を説明する
それはただの社会的なポジションとは関係ない人間同士のある種の近さを説明するものだと言える
そして近さの関係を作り出すのは共通体験つまり行為によって成立する 一緒に何かをした この体験が儀礼となる
儀礼によって点と点の近さを感じたとき
人は間に線を引く
言葉では表し難い近さ
友達と言われる関係の根本にはそれがあると思える
行かないで そうわざとらしく言って彼を止める
別れ際にいつもしているお決まりのくだり
重いふりをして彼を笑わせる
ふりのふりだって彼に気づかせないために私もすぐに笑う
自分で自分に腹話術 本当の気持ちを誰かに言わせる
飽きられないように声色と動きを毎回変えて言ってきた
だけど彼の笑った後の表情が不穏に感じる
頑張ってきたけどついに飽きられたのかもしれない
それでもどうしたらいいかわらなくて私はまた誰かになる
行かないで そうわざとらしく言われて止められる
別れ際にいつもやられるお決まりのくだり
重いふりをして僕を笑わせる
本当にしているのは重くない恋人のふりだとわかってる
彼女のすぐに笑った後の表情が不穏に感じてしまうから
その表情に触れられない自分の情けなさを隠すために笑う
だけど自分の笑った後の表情は隠しきれてないんだと思う
頑張ってみたけれどついにそれもバレてるのかもしれない
それでもどうしたらいいかわからなくて僕はまた笑う