花中流

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4/30/2023, 10:20:53 AM

楽園


積み上がったビニール袋。
ボロボロと剥がれる鞄。
広告の詰まったドアポスト。
賞味期限の切れた菓子パン。
いつ開けたか不明なペットボトル。
裏面がカビた布団。
窓から逃げない異臭。
日に焼けたカーテン。
穴が空いた寝巻き。
お目見えしない服。
引っかかる爪先。
足が6本や8本の同居人。

これが、ボクの。


(2023.4.30)

4/30/2023, 8:40:53 AM

風に乗って


子どもの頃からずっと使っている学習机の、開かずの間である引き出しを二十年ぶりに開けた。
くたびれた封筒を取り出す。
今よりもよっぽど下手くそな字。それでも当時の最高傑作だった想いの丈は、何枚もの便箋を犠牲にして生み出された代物だ。
連れ添ったまま庭に出て、青い青い空を見上げる。
初夏の風が穏やかに、乾いた頬を撫でた。
この季節が好きだと言った、あの人。
目線を落とし、用意していたライターに火を灯す。
近づけた縁辺からみるみるうちに手紙は焦げ、逝った。

先生。
風の便りに、あなたが亡くなったと聞きました。
孤独だった私を唯一、見捨てずにいた、人。
今さらながらの私の遺灰は、あなたの下まで届くでしょうか。

(2023.4.30)

4/27/2023, 10:48:13 AM

生きる意味


「ただいまぁー……」
「おかえり。おぉー、今日も相変わらず疲れてるね」
「もぉさー、またあのクソ上司の理不尽な嫌味が凄いんだもん‼︎ 意味わかんない変なクレーマーにも絡まれるしさー……あーもーほんとに……毎日まいにち仕事仕事仕事‼︎ いずれ定年は七十になるとか言われてるし……はぁーあ、こんなんで生きてる意味あるのかな……」
「よしよし、お疲れさま。とりあえずハグしてあげるからこっちおいで」
「ん……」
「はーい。ぎゅっ」
「はぁ〜〜……」
「落ち着いた?」
「うん……でももっと」
「ははっ、いいよ。いくらだってしてあげる」

 君が死を惜しむくらいに。


(2023.4.27)

4/26/2023, 10:54:05 AM

善悪


 予報を裏切った快晴の下、ひらひらと舞い散る桜が綺麗で、意図せずとも笑っていた。
 散歩がてらの花見も悪くない。
 近所の小さな公園の並木とは言えない数でも、美しいものは美しい。
「嬉しそうだね」
 手を繋ぎ、隣りで歩く彼も笑う。
「うん。やっぱり桜はいいよねー、外に出てよかった」
「そっか。——でもさ、そこ見てみなよ」
「ん?」
 そこ、と指差された箇所を見やる。
 昨日までの雨に打たれて落ちてしまった彩りが、数多の靴底の世話になり、哀れにひしゃげて溜まっていた。
「ああやって踏まれて汚れてさ。そうなるともうゴミみたいに見えるんだよね」
 無邪気かつ爽やかに。私に向けたものと変わらぬ顔で、相変わらず彼は笑う。
 見方を変えれば、即座に。
 それは変わってしまうのだ。
 
(2023.4.26)