花中流

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風に乗って


子どもの頃からずっと使っている学習机の、開かずの間である引き出しを二十年ぶりに開けた。
くたびれた封筒を取り出す。
今よりもよっぽど下手くそな字。それでも当時の最高傑作だった想いの丈は、何枚もの便箋を犠牲にして生み出された代物だ。
連れ添ったまま庭に出て、青い青い空を見上げる。
初夏の風が穏やかに、乾いた頬を撫でた。
この季節が好きだと言った、あの人。
目線を落とし、用意していたライターに火を灯す。
近づけた縁辺からみるみるうちに手紙は焦げ、逝った。

先生。
風の便りに、あなたが亡くなったと聞きました。
孤独だった私を唯一、見捨てずにいた、人。
今さらながらの私の遺灰は、あなたの下まで届くでしょうか。

(2023.4.30)

4/30/2023, 8:40:53 AM