まさに今の私の心情
光輝いて見えるような人はたまにいる。聖人みたいな存在。
「お前はほんとに光ってんだもんな」
「む」
隣でラーメンを啜る友人が顔を向ける。その顔は逆光で見えづらいが、どんな表情をしているかは何となく読みとれた。
「いやそれねー初対面の人とかなかなか信じてくれないけど」
彼はセルフで逆光状態になる人間だった。背後から常に謎の光が出ている。おかげで俺は10年間この男の顔つきを知らないままだ。
「不便なこともあるけど夜道とか明るいし便利っちゃ便利よ。……ふかいかたってひゅうのあね」
「食いながら喋んな。あ、すみません替え玉お願いします」
映画館に行くときは黒い服装でパーカーのフードを被って鑑賞したり、クリスマスシーズンに駅前のイルミネーションに紛れたり難儀なことが多そうだが持ち前のポジティブで上手く生活しているようだ。
「でも俺、お前のそういうとこまじ尊敬してる」
「まじ?さんきゅ〜」
このあとはお互いラーメンに集中していたためまともな会話はなく、そのまま店を出た。
「ごちそうさまでしたー」
がらがらと引き戸を閉めると体がすぐに外の冷気に包まれた。白い息が呼吸と合わせて立ち昇る。
「さみ」
「上着もってきてないわ」
「もう一軒行く?」
「そんな入んね。帰る」
「おー」
駅までの道のり、やつが呟いた。
「俺、今まで誰にも言ってないことがあるんだよね」
「何その入り。怖いんだけど」
内心どきりとする。深刻な相談とかされるのか。
「俺って発光してるっしょ」
「まぁ、見ての通りそうだな」
「だから喋ってる相手の顔そんなわかってないんだよね。自分の発してる光が相手照らしちゃって」
「お前もその状態なるんだ」
でかいシュークリームの上で寝る夢
「タイムマシーンってあるじゃん?」
前の席のユミが背もたれに腕をかけてふり返った。その流れで後ろ向きに座り直して『たわいもない雑談をします』の姿勢になる。
「うん」
窓際で友達と喋る笹本くんの髪は今日もさらさらつやつやしている。一体どんなケアをしているのか。遺伝か。あ、今こっち見た。
「ねぇ、聞いてる?」
「きいてるきいてる」
笹本くんからユミに視線をうつす。前に座るこの女子はつやのある唇を少しつき出し整った眉毛を八の字にしていた。どんな表情をしていてもその大きな瞳を向けられると誰でも可愛いと思うだろう。笹本くんもきっとそう。いつも笹本ばっかり、とユミがぼやく。10分の休み時間くらい好きな人を眺めてもいいはずだ。
「…でさ、タイムマシーンってあるじゃん。」
「実在するかわからないけど。」
「あるの。」
「へぇ」
ユミは少し不思議な子だ。炊きたてのお米に感動して号泣したり、ニュースを見るとき難しい顔をする。あと今みたいに根拠のない自信をもったりも。
「ふつうタイムマシーンって机の引き出しとかさ、なんかでっかい装置を思い浮かべるよね。こーんぐらいの」
「うん、そうかも。」
「実際は違うんだな。これよこれ」
そう言うと手に持ったペットボトルを指さした。よくあるミネラルウォーターのペットボトル。ラベルは剥がされてるけど、ボトルの形に特徴がある。
「うっそだぁー」
「ほんと!いつでも持ち歩けるし現実的でしょ。2060年からタイムマシーン開発が進むようになって最終的にこれになったんだ。」
「えぇ〜」
話を聞きつつ、つい笹本くんの方に気が向いてしまう。休み時間ももう少しで終わりだ。笹本くんは一番後ろの席だから授業中視界に入らない。
「私、あなたがいたからこの時代に来たんだよ。でも…笹本に負けちゃったなぁ」
一瞬ごくっと喉を鳴らす音がすると、すぐに予鈴にかき消された。
「え」
前を向くとユミはもういなかった