時間は存在しない。君が時刻を知らせる前に地獄が始まり、暖かな食事は冷めきった夕餉に変わる。夕刻には秒針が峠6から峠12までを登りきれずブランコのように落ちてきた。休んでていいよ。時計の針は肩凝りが酷くてカチコチだ。一日くらい時計にも休みがあっていいと思う。
題『時計の針』
グラスに注いでしまえば、田舎の蛇口から出る水道水はアルプス渓谷の雪解け水と大差ない。仮に初恋の人と運命的な再開を果たしたとして"今でも好きだ"と伝えるなら喜ぶだろうか、気持ち悪がるだろうか?
豚骨ラーメンのようにギトギトな溢れる気持ちは純粋な恋心であってもいつでもWelcome とはならない。
題『溢れる気持ち』
美しい花を咲かせる場所を求めて、コンクリートの足場を踵でカツカツ踏み鳴らし、記憶の向こう側へ旅をする。だが、どれだけ進もうと満足感を得られた瞬間は見当たらない。もはやシャッター街となった記憶の商店街で売っているのは常備薬と疲労物質だけだった。母と兄が寄り添いにくる。近づく顔からそっぽを向く。頭髪は馬油の艶のある母親似の髪が白髪混じりに伸びており、ツヤはあるが少しキシキシしていた。側頭部に唇のあたる感触がある。特に不快感はなく、何とも思わない。萎み切った筋肉は熱生産を終了しており、その僅かな温もりでさえ貴重だった。
題『kiss』
蒸しパンとフランスパンでは密度が違うと気づく。いつも通りを心掛けていたのに意識すると吐き出したくなる。少しでも普段と違うと身体が拒絶する。
"痩せたいという想い"がなければ摂食障害と認められない。本人の言葉ひとつで誤魔化しは容易なのにだ。
きっと1000年先も他人の苦しみは分からない。
題『1000年先も』
死の土壌を開拓した過去は誰にも崇められず肥沃となった大地は偶々通りかかった略奪者に搾取される
"両脚のふくらはぎの痛みを忘れないで"
降り積もった疑念の雪は日記に書き留めた
勿忘草が咲き乱れても決して忘れないで
"あなたの人生を生きて"
題『勿忘草(わすれなぐさ)』