【物憂げな空】
貴方が居ない今日、私はいつもと変わらぬ日々を創作した。
朝7時にはベットからでて、朝8時半には会社に出勤した。
お昼の休憩時間にはノートパソコンで仕事をしつつも、いつものカフェでゆったりと過ごす。透明な大きな窓ガラスがある固定席に座り込んだ私は、湯気立ち込める焦げ茶色の珈琲を見詰めてはひとくち含んだ。暖かなほろ苦さが口全体に広まって、寒さに悴んだ身体に染み渡ってゆく。もうひとくち含もうとしてカップの縁に口をつけたその時。大きな窓ガラス越しに私雨が目に写った。私は思わず、さっき持ち上げたカップをゆっくりと皿の上へ戻し、暫くは目の前の雨に心惹かれたかの様にぼーっと見詰めていた。ふっと我に返った際に透明な窓ガラスに自分の顔が反射していることに気付く。窓ガラスに着いた水滴と、自分の顔が重なり合う。その光景を目に、何故か勝手に心の中を見透かされた気分になった私は、又ゆらり揺れる真っ黒な珈琲の水面へと目を背けた。
きみには
今 、 ほんの少しだけ
【待ってて】。
【ウルフムーン】
昨日は今年初めの満月だった。雨で見ることが出来なくて残念に思った。
貴方は今日、自分のベランダから見える月の写真を送ってくれた。
その写真と一緒に
「今日の月はウルフムーンって言うんだって〜!」
「せっかくなら同じものを見たいし〜」と。
要はこの美しい満月を私と共有したかったらしい。
そう聞いて私は思わず美しいと思った。たった1枚の美しい満月の写真に込められたその純粋な心が。
満月は今日じゃないけれど、貴方が満月を見たのだというのなら、私も貴方と同じ満月を見よう。
私はふと、写真ではなく空に浮かぶ本当の月を見たくてカーテンを開けた。
それは貴方と同じ月を見る為に。
ベランダの手すりに反射した月が揺れる。
いっそ、貴方の心も揺れてしまえばいいのに。
【クリスマスの過ごし方】×【蛙化現象】
私が蛙化現象を持っていると知りながら告白する貴方。
貴方は一体どれほどの勇気を持って告げてくれたのか、私が考え、語れる立場では無いのでしょう。
暖かな窓の外を眺めれば、
聖夜の白雪として舞い落ちることの出来なかった微雨が
凍て空から虚しくアスファルトの上に打ちのめされている。
…けれども、私は考えてしまう。
私が貴方の立場なら告白をすることが出来たのだろうか。
自分の好意を伝えれば、結ばれる訳もなく振られて嫌われるのだと分かっているのに。
「本当にごめんね。
私の蛙化現象が治らない限りは貴方の気持ちを
〝好意〟として素直に受け止める事は出来ないの。」
なんて、ここで言うのは狡いよね。
「
拝啓、君へ。
種を植えたのなら、
美しい太陽を見せてくれますか。
」
𓂃 𓈒𓏸✎
【聖杯】
少しずつ、満たされていく__。
ポチャン。ポチャン。ポチャン。
少しずつ、満たされていく__。
1滴。1滴。1滴。
少しずつ、満たされていく__。
1滴。
それは、私達の気づかない間に
少しずつ、満たされていく__。
1滴。
それは、私達が気にも止めなかった時間で
少しずつ、少しずつ満たされていく__。
1滴。
それは、私達が少しずつ重ねた歳月と共に
少しずつ、少しずつ満たされていく__。
1滴。
見えぬ所に落とし穴があるとも知らず
少しずつ、少しずつ満たされていく__。
1滴。
零れ始めていることに気づけず
少しずつ、少しずつ満たされていく__。
1滴。
もう満たす容器すら、持たぬというのに
「。」